地域鉄道フォーラム -鉄道事業の再生・活性化にむけて- の開催

一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催/国土交通省鉄道局・第三セクター鉄道等協議会後援

一般社団法人交通環境整備ネットワークでは、広く市民に地域鉄道の現状と課題への理解を図り、地域鉄道間の連携や再生、その活性化に資することを目的として毎年地域鉄道フォーラムを開催してきております。
第5回目となる今回は、「鉄道事業の再生・活性化にむけて」と題し、国土交通省鉄道局鉄道事業課長高原修司氏、同省が主催する地域鉄道の再生・活性化等研究会座長の矢ケ崎紀子氏(首都大学東京 観光科学域特任准教授)と、ひたちなか海浜鉄道株式会社社長吉田千秋氏を迎えて講演を行います。
皆様のご来場をお待ちしています。

期 日:平成25年6月8日(土)
    13時00分~15時00分
場 所:東武博物館ホール

東京都墨田区東向島4-28-16
  東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)東向島駅下車0分6
    TEL 03-3614-8811(代)
参加費:無料
参加者:169名


プログラム

1.開会の辞  一般社団法人交通環境整備ネットワーク代表理事 佐藤信之 
2.来賓挨拶  国土交通省鉄道局鉄道事業課長 高原修司 氏  
3.講 演 
首都大学東京 観光科学域特任准教授 矢ケ崎紀子 氏 
~地域鉄道の再生・活性化の事例から学ぶ~ 
 
ひたちなか海浜鉄道株式会社 社長 吉田千秋 氏 
~地域と共に歩む鉄道をめざして~ 

講演者のプロフィール 

高原修司

髙原修司
1988年4月運輸省入省し、内閣官房内閣参事官、国土交通省鉄道局財務課長を経て、2012年4月から国土交通省鉄道局鉄道事業課長

矢ケ崎紀子

矢ケ崎紀子 氏
首都大学東京 都市環境学研究科観光科学域 特任准教授、国土交通省交通政策審議会委員、株式会社日本総合研究所 総合研究部門上席主任研究員。
2008年から2011年国土交通省観光庁参事官として観光経済を担当。 2012年からは国土交通省の「地域鉄道の再生・活性化等研究会」の座長を務める。これまで観光、地域経営、地域の活性化をテーマに数多くの提言を行なっている。

吉田千秋

吉田千秋 氏
ひたちなか海浜鉄道社長。公募された鉄道会社社長第一号、関東運輸局地域公共交通マイスター。
万葉線の再生に携わり、その手腕を買われる。東日本大震災で路線が大きな被害を受け、三ヵ月余にわたって休止を余儀なくされるも震災復興の原動力となるべく行政・市民・社員一丸となって復活を果たす。 地域鉄道再生のための人材育成を目指している。

講演概要録

地域鉄道の現状と課題  高原修司国土交通省鉄道局鉄道事業課長

 地域鉄道の現状は厳しいと言わざるを得ません。地域鉄道の輸送人員の推移を見ますと昭和62年度から平成23年度にかけて約17%減少しています。これだけ輸送人員が減ると当然収入も減ってくる訳で、平成23年度における地域鉄道事業者の経常収支を見ますと、75%の会社が赤字になっています。
 赤字の要因は、ワンマン化等により人件費が減り、相対的に施設保有に関する経費の割合が高くなっているというコスト構造にあります。
 このように非常に厳しい現状にある地域鉄道でありますが、支援を行なっていく上での課題には、「経営改善」と、「収入増」の2つの視点があると考えています。
「経営改善」については、経営の厳しい鉄道事業者に対して沿線の地方公共団体が施設を保有するという上下分離を導入し、鉄道事業者の施設保有コストを軽減して行こうというのが一つです。もう一つは、現在、地方公共団体の財政状況が非常に厳しく、国が地域鉄道を支援しようとしても地方公共団体は国とともに行う負担になかなか一緒について来られないという状況があります。これを打開するために地方公共団体の負担を和らげたいということです。
 また、「収入増」では、地域鉄道の活性化、利用促進策の検討を進める必要があります。 
 これらの課題につきまして、私どもが取った方策について以下詳しくお話したいと思います。

鉄道事業再構築事業による輸送の維持
 「経営改善」の中の経営の厳しい鉄道事業者への支援については、「鉄道事業再構築事業」という施策が有効と考えております。これは継続が困難又は困難となるおそれのある旅客鉄道事業の経営改善を図るために、市町村等と鉄道事業者が共同で経営改善の計画を作成し、国土交通大臣による認定を経て実施するものです。認定が得られると、市町村等地方公共団体が鉄道施設を保有して設備更新経費を負担し、支援することが可能となります。現在この再構築事業を実施している事業者は、福井鉄道、若桜鉄道、三陸鉄道、信楽高原鐵道の4社です。私どもはこの再構築事業を広げて行きたいと考えていますが、地方公共団体の方々からお話を伺いますと、鉄道施設を地方公共団体が所有することに躊躇があると聞いています。そこで、今年度はこの再構築事業を行うことへのインセンティブを高めることと致しました。それが鉄道軌道安全輸送設備等整備事業です。現在は、レールや枕木など安全設備を整備するときに、国がその費用の3分の1を負担しています。今回、平成25年度予算におきまして、この3分の1の国の補助について、再構築事業を行なっている事業者につきましては2分の1に嵩上げするという要求をし、認められました。私どもはこのようにインセンティブを高めることによって、再構築事業の適用を拡大し、地域鉄道の再生を図って行きたいと考えています。

地方財政への措置
 経営改善の課題のもう一つは、地域鉄道支援に対する地方財政措置の創設です。地方公共団体においては、財政が厳しく、国と協調して設備補助を行うことが困難な状況である一方、地方公共団体の地域鉄道支援に係る国の交付税措置はこれまで行われていませんでした。そこで、平成25年度から新たに国の交付税が措置されるよう総務省に要求しました。総務省は、全国には地域鉄道を持たない県もあることから、これまでは交付税措置を認めていませんでしたが、地域鉄道の現状は厳しく、また地域の足として非常に重要であるということで、折衝を続けた結果、総務省としても本交付税措置を認めても良いということになりました。具体的には、地方公共団体が補助した投資的経費のうちの30%について国の交付税により充当されることとなります。
 これらにより地方公共団体の支援が行いやすくなり、国の支援と合わせて地域鉄道の安全運行、経営の安定化を図って行きたいと考えています。

地域鉄道の再生・活性化等研究会の発足
 「収入増」からの視点としては、地域鉄道の活性化、利用促進策の検討を進める必要があることから、昨年度に地域振興や観光振興を踏まえた地域鉄道の再生・活性化等研究会を発足させたところです。研究会の委員は、地域振興、観光振興に造詣の深い矢ケ崎紀子先生ほかの学識経験者の方に参加をいただくとともに、鉄道事業者、関係団体、行政関係者にもご参加いただきまして、合計4回の審議を行いました。お手元に地域鉄道再生・活性化等研究会報告書「観光とみんなで支える地域鉄道」が配付されていますが、これが初公開となります。
 国土交通省といたしましては、今後も皆様とともに地域鉄道を盛り立てて参りたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。(拍手)

地域鉄道の再生・活性化事例から学ぶ  矢ケ崎紀子首都大学東京特任准教授

 先ほど高原課長様から地域鉄道の再生・活性化について検討する検討会が立ち上がり、私がその座長を務めさせていただいたというご紹介を頂戴しました。私が座長を務めさせていただいたことの意味は二つありまして、一つは先ほどのお話がありました「収入増」というところを目指すために、観光という切り口を今一度考え直してみようというのが大きなテーマとなっておりました。観光の振興ということについてずっと研究実践してきており専門領域であるということがあります。もう一つに個人的なことですが、私の郷里のローカル鉄道がなくなってしまったという体験を持っております。炭鉱があり、人口が増えていったのですが、炭鉱の閉山とともに人が少なくなって地域鉄道も線路ごとなくなってしまった、そうなると街の人は非常な喪失感を味わいまして、このようなことが全国にたくさん起きるということでは駄目だという思いを強くしていたことがあって、座長という任務は大変難しくて重い役割だったのですが、前向きにこなすことができたと感じています。何回も研究会を重ね、成果は報告書という形で本日初公開、皆様方に一番最初にお目見えさせていただきました。その研究会の成果を踏まえた上で、今日は若干付け加えてお話をさせていただきたいと思います。

地域鉄道の再生・活性化等研究会の問題意識
 まず、地域鉄道の再生・活性化等研究会の問題意識ですが、端的に申しますと、「地域のために存続するのだ」ということです。そのためには社会的な意義が地域に理解されなくてはいけないであろうと、これは一見当たり前のように思われますが事業者自身が意義を見出していても実は地域の津々浦々まで意義や重要性、鉄道がなくなったらどうなるのだろうということまで含めて社会的な意義が共有されているとはまだまだ言えないと思います。地域鉄道への無関心がある中で地域鉄道が成り立っていくのは非常に難しいところがあり、まずはこのところをクリアしていこうではないか、という問題意識です。そして経営努力の上で、地域とともに行う「総力戦」をやって行かなくてはならない、ということだと思います。この「総力戦」のところに観光の活用が入ってくるということであると思います。このような問題意識で報告書を出しました。

鉄道事業の再生・活性化事例
①和歌山電鐵のたま電車とイチゴ電車
皆さんご存知の和歌山電鉄の「たま電車」と「いちご電車」、一見かる~く見えますが、なぜこのようなことをやっているのかということですが、地域鉄道に対する親しみを持っていただく、話題性を持っていただくということで、地域鉄道自体が観光資源になり、観光資源としての空間、魅力を造っていくというお取り組みです。
②北近畿タンゴ鉄道の赤い列車と青い列車
北近畿タンゴ鉄道では、「松」をイメージした赤い列車と青い列車の観光型車両にリニューアルして4月から走らせています。和歌山電鐵と同じ地域鉄道自体が観光資源になるということでもあるのですが、もう一歩進んだ意味があると思っています。この2つのタイプの車両は、地域にたくさんあって、地域の景観を構成している「松」、赤松、青松を表しています。この2つの列車は、近畿タンゴ鉄道沿線の「顔」になっています。ふるさとの顔、ふるさとの風景のシンボリックなものとしてこの車両空間が表現されていて、これに乗ると松林を走る北近畿タンゴ鉄道の沿線のことだとわかるようになっています。そういう愛され方を模索しています。観光客だけでなくて地域の方々にも「うちの青松、赤松」と言ってもらえるような愛され方を目指しているというメッセージが伝わってきます。
③津軽鉄道のストーブ列車
津軽鉄道のストーブ列車、たぶんストーブ列車が無いと、冬に観光客が行かないですね。冬という閑散期、なかなか観光客が乗らないところに、「寒い」という負のイメージを逆手にとったような、外は寒いけれど車内は暖かくてスルメを焼いてストーブの前で皆が憩うという空間ができていて、この外と中のギャップが観光客にはぐっとくる設えがされています。冬の寒さがあってこそのストーブ列車でありますし、閑散期対策にもなっていて、観光という需要の平準化にも役だっている事例だと思います。
④山形鉄道コロプラゲーム
山形フラワー長井線は、山形の中でも花がとても綺麗に咲く置賜の回廊という地域をかけ抜ける列車で、「フラワー長井線」と名前がついています。車両からの景観もすばらしいのですが、それだけでない工夫をここでもされています。皆様コロプラというのをご存でしょうか。
これは「位置ゲーム」なのです。GPS、GISの位置情報を活用したゲームで、何が良いかと申しますと、移動をすると移動をした距離に応じてポイントが溜まります。そのポイントを集めるとこの会社が提供する色々なものと交換していくことができます。今までは、人がその場所に動かず居て、物が運ばれて来る、居ながらにして通信販売で物を買うなどという流通の仕方でした。そうではなくて今度は逆も面白いのではないかということで、物はその場所に固定をする。地域鉄道はその地域で走る、その場所でしか食べられない弁当はその場所にある、人が移動して、それを堪能しに行く、今までは物が動いていたけれども、これからは物を固定して人を動かすというために、このようなゲームを使いましょうということです。動けば動くほどポイントが溜まりますし、この場所に行けば特別ポイントが溜まりますといった仕掛けもできる訳で、人の動き方を誘導していくようなゲームになっています。こういったところと組んで観光客の方々を首都圏等から呼び寄せています。
⑤いすみ鉄道ムーミン列車
いすみ鉄道では列車をどのように使うのか、その空間を使う可能性を研究されています。ムーミン列車は、地域でもずいぶん愛されてきています。駅には地元の人が造ったスナフキンがいて、沿線を走っていますと地元の方が、ムーミンに関するオブジェを勝手に置いてくれるようで、釣りをしているムーミンとかもあります。乗って車窓を見ていると、「あそこに!」という感じでとても楽しいです。ただムーミンには版権がありますから勝手に造ってはいけません。でもこれだけ地域に愛されているので、お許しいただいているようですね。地域に愛されているいすみ鉄道の秘訣はもうひとつあり、いすみ鉄道が集めてこられた乗客、観光客を地域の中の津々浦々に案内をしようとされています。いすみ鉄道に人が乗れば商店街が儲かるというような仕組みをお作りになっています。いすみ鉄道に乗って、地元商店街で買い物をしてもらうというような流動の作り方をされています。地域とともにWIN?WINになっていくと地域も地域鉄道に対して本気で考えてくるということになっていくのです。
⑥明知鉄道の気動車運転体験
明知鉄道でもネーミングライツなどいろいろな活動をされていますが、気動車の運転体験というプログラムをつくられていて、このようなチャレンジするのが大変そうなことにもかなりの人が集まっていると聞いています。こういったことも地域鉄道自体がすごい観光資源になっていくというやり方だと思います。
⑦東北鉄道協会の連携プロジェクト
以上の活動は、お客様、ファンをもっと得ていく、物品ももっと売っていくという、どちらかというと攻めの活動です。それを支える裏方の仕組みがしっかり出来ているということも重要だと、感動したことがありますので、ご紹介します。
東北鉄道協会というのは、津軽鉄道の澤田社長を会長に20社参加していると聞いていますが、ここでは「連携プロジェクト」というものが立ち上がっていまして、合同訓練や研修会、新人運転士の養成や異常時合同訓練を一緒にされたり、あるいは一社が車両メンテナンスをすべて行う機能を持っていたりすると、持っていない会社がそれを利用させていただくようにするとか、技術や安全に関するベテランの社員がいると別の会社はその人にアドバイスを受けてお互いに技術を高め合っていくとか、部品の融通、検査機器は高いですよね、そういったものを持っているところが持っていないところに融通しあう。そのような活動を平成20年からされています。これは大変重要なことで、安全と技術の継承というところは鉄道事業者の生命線であり、ここがゆらぐと観光もなにもあったものではありません。足腰をしっかりするところはしっかりする、ただ、そこに多大なコストをかけられないので、そこを連携するということで、お互いの知恵、物品、設備を活用しながらコストを下げながらも質を維持していくという取り組みです。
また、相互送客事業というのもされていて、山形鉄道さんが集客したお客様を会津鉄道に送って、またその逆もされるというお互いに役割分担をされていて、地域鉄道自体のリピーター客を造っていくということをしています。
合同研修会では、トレインアテンダントのスキルアップ講座というようなこともされています。鉄道ビジネスの根幹の地道な部分の連携が日常的に継続していたことから、東日本大震災の後もお互いに復興について助け合う、有事があっても技術も、技術者も、スキルも、物も助けあって復興への対応が極めて迅速に行われたと聞いています。
このような仕組みを裏にきちっと持ちながら観光という切り口でも軽やかに攻めていくといったことがこれからの鉄道経営者には求められると思いました。この東北鉄道協会のお取り組みを研究会で初めて知って感動しましたので、「他の地域でもやっていますでしょうかと」お聞きしましたら、他の地域ではなかなかここまでの取り組みは行なっていませんとのことでした。規模が大きくなくても良いので、他の地域でもぜひこのような取り組みをされていって、安心して、安全で、楽しく乗れる地域鉄道であって欲しいと思いました。

観光を活用される際のポイント
観光の語源とは
観光を活用される際のポイントにお話を移させていただきたいと思います。
観光という言葉は古く、春秋戦国時代がありましたが、あの頃の易経にある言葉です。「国の光を観る。用て王に賓たるに利し」とあって、国の光を観る、誰が観るのか、それは王であって、その地域を統治している人が、自分が治めている地域のピカピカ光る光を観て、自分の地域は良く治まっていて良かった、ということが観光の語源です。
その「光」とは何でしょうか。その地域のすばらしい建物でもありますでしょうし、その地域の人々の立派な暮らし方でもありますでしょうし、産物でもあります。自分の治める領土の中で、ピカピカと光るもの、光る事、そのようなものを為政者はきちんと観て良かったと確認する作業が「観光」という言葉の意味、語源なのです。
これを地域に置き換えてみると、「地域の光を観る」ということになります。地域の光は多くの人に観て貰いたい訳ですが、地域鉄道がその光を多くの人に観てもらう役割を果たすということで、地域鉄道が観光に取り組んでいく意義があると思います。
光を観るというのが観光の語源ですから、そこをブレずにしっかりと考えてお取組みいいただけると良いと思います。

観光の特徴
観光の特徴について解説をいたします。実は観光というものはクセがあります。2008年10月に国土交通省の観光庁が立ち上がった際に、民間から課長が欲しいということで、大募集をしました。経済や金融面での流れのわかる人が欲しいと後でお聞きしましたが、私が選ばれて参りました。それまでは観光はイベントをやれば良いのか程度の感じを持っておりましたが、それは大きな間違いで、すべからく何のためにやるのか、イベントにおいても何のためにやるのかという目的意識をはっきり持たないと水物の観光では流されていってしまうという怖さがあることを知りました。
ですから皆様方におきましては、これから述べる観光のクセ、留意点をお踏まえいただいて、その上でお取組みをされると良いと思います。
①すそ野の広さ
まず観光の特長としては、すそ野が広いということです。
年間22.4兆円という観光を含めた旅行の消費額が立っています。旅行には、観光目的、ビジネスの業務目的、それから帰省が入って、人が移動することによって生じる消費、これを旅行消費額と言って、毎年観光庁で算出をしています。
年間22.4兆円というのは、たいへん大きな額で、一国の経済を担うほどと言われているトヨタ自動車のグローバル決算の最大値と遜色ない程の額です。
この22.4兆円の消費が立つと、経済波及効果として46.4兆円までの二次効果があります。2倍強の経済効果で、第一次産業にも第二次産業にも第三次産業にも全部回っていくのです。旅館に泊まれば、地元の食材、農業・水産品を食べますね。おみやげも買いますから物づくりも関係してきますし、売るための小売業もありますし、移動しますから運輸業は当然必要です。旅館を中心としてクリーニングサービス、建設の需要等々も発生してきますからそれらを含めると2倍強の経済波及効果を実現することができます。
しかし、これは「実現しよう」という気持ちになって取り組まなければ実現しません。すそ野の広さというものを実現するためには、地域の企業がお互いに仕入れを繰り返す、地元の産品をしっかりと使って地元の中で経済を回していく、旅行者が他所から来てお金を落としてくれるその消費が地元の経済の連環で、域内の循環をして付加価値を高めていくという仕組みがあれば2倍強になるのです。2.4倍は国レベルの数値ですが、都道府県レベルでみると、この仕組を作れている地域と作れていない地域との差は、はっきり出ています。この波及の係数が1に満たないところから2強までバラバラになっています。それは地産地消であるとか六次産業化であるとか、地域の地場の産業を繋いでいって地元のものを使った付加価値の高いものを他所から来たお客様に買っていただくというビジネスの連環が出来ているところでしか、すそ野の広さを享受できません。ですからつくり込めばできるということです。地域鉄道は、その連環を高める要、結節点に居て、そのようなものを造っていく役割をお持ちになることにあると思います。
②需要の偏在
次に観光の需要は偏っているということです。

休日の国際比較(単位:日)

国別 週休日(土日) 祝日 有給休暇 合計
フランス 104 11 25.0 140.0
ドイツ 104 10.5 30.0 144.5
イギリス 104 8 24.6 136.6
アメリカ 104 10 13.2 127.2
日本 104 15 8.2 127.2

アメリカ2006年、他は2007年の数値
有給休暇の日本は取得日数、他は付与日数

働いている人は、年末年始、ゴールデンウイーク、お盆だと休みを取りやすいですね。このゴールデンウイーク、お盆、年末年始の期間は、365日中24日で、6.6%です。実はこの6.6%の日に、2009年のデータでは、旅行量の4割強が発生しています。2009年はシルバーウイークもあって、これも入れると1割ぐらいの暦の日数に5割近い需要が達しています。何故でしょうか。日本人は一斉に休暇を取る民族だからです。
③休日の偏在
休日の国際比較を見ると、土日は、世界共通104日ですが、祝日は、日本が15日で、実は日本の祝日は世界で飛び抜けて多いのです。年次有給休暇の取得日数をみると、日本では8日程で、こういう休みの取り方ですと祝日に移動せざるを得なく、一斉休暇取得型民族となり、特定の期間に観光需要が立つということになります。フランスやドイツでは、祝日は10日ぐらいあるのですが、年次有給休暇が25日、30日と大きな数値になっています。例えばフランスは有給休暇を全部取らなくてはいけないことになっており、100%取らないと企業に罰金が課せられます。フランスやドイツのような休みの取り方をしていますと旅行の需要も分散していきますし、1回の旅行も長い旅行になって行くことになります。日本はなかなかそのような休暇取得の構造になっておりませんので、今しばらくは一斉休暇取得型であると思っても間違いありません。この一斉に休むというのが、かなりの需要の偏在を生んでいます。

④首都圏需要による変動
北海道の1月から12月までの観光客の入込数を見ますと、道内客はそんなにアップダウンはありません。北海道の人が北海道内を旅行して歩くのは、住んで地元を分かっていますから、雪の季節であろうと関係ありません。
しかし、道外客を見ると季節での需要変動が如実に出てきています。7,8,9月の気候が良くなると人がたくさん来て、2月にはスキーでちょっと来てというようなピークの立ち方が見られ、オンとオフのピークの比率は2倍近くなるという状況が発生します。ですから皆さんの地域でもどのような観光のオンオフの需要が発生するのかということを良く把握し、季節変動は誰がもたらしているかを把握した上で、観光振興にお取組みになられることが必要です。季節変動に関係なく、まずは地元の人を大事にする方が早いです。移り気で、特定の時期に移動して歩く首都圏等の人たちをどのように相手をして組み立てていくかということは次の戦略で考えるということだと思います。
⑤サービス消費の特性
観光は、サービスですから在庫がききません。これは地域鉄道と同じで、この日の何時発のこの席というのは、その時しかないもので、在庫にはなりませんね。その時、その場所で、その席が売れなければ空気を運ぶことになります。それと全く同じ事が観光に、旅館に、観光商品にも起こってきます。生産と消費が同時に起こり、生産と消費が不可分ですし、人によって提供できる品質が変わってきます。先ほどのトレインアテンダントさんの合同訓練といったことも品質の向上のためにされる訳ですが、それにしても質を一定に保つことは難しい。非有形性、観光商品は形がないものですから、事前に触ったり、飲んだり、試したりして購入ができません。車を買う時でも試乗して購入します。家を買う時もモデルルームを見てから買います。新しい商品は試飲したり、試着したりして買うことができます。でも旅行商品は、行ってしまえばそれが本番ですから、事前に試すことが出来ません。そのため、たくさんの写真等で、ここに来ていただければこんなに良いことがあります、こんな経験ができます、ほら見てくださいと写真等で事前に情報提供して「お約束」をするのです。形のない商品の宿命で、この写真のとおりのことがありますから来てくださいという、そのようなお伝えをしなくてはなりません。初めてのところに行くときは、るるぶさんの雑誌などで写真を見て、ここに行きたいと思って行きますね。その写真が建物だとしましょう、そうするとその建物の前で証拠写真のように皆さんで写真を撮る「確認作業」をされています。とても良いものだということを初めて来る人に伝えることはたいへん難しいというのが観光商品の特長です。なので、ブランド化、約束をちゃんと守りますというブランド、あるいはクチコミ、そのようなことがとても重要になってきます。
⑥旅行行動のプロセス
旅行行動のプロセスが長いということも旅行商品を考えるときに重要です。まず、旅行先として「認知」してもらわないとなりません。地域の地名が知られているだけでは話になりません。単なる地理的な知識です。そこが旅行して行ったら楽しい場所であるという認知を得るということがまず一つの大きなハードルです。旅行先の候補として知ってもらった後は「興味」を持ってもらい、実際に行く先として「検討」してもらって、いくつかある旅行先としての検討に勝ち残って「選考」してもらい、そしてようやく年に1回の旅行は、今回ここに行こうというふうになるのです。ですから大変な選抜が繰り広げられるということです。2,30ある選択肢の中から勝ち抜いて、いすみ鉄道のムーミン列車に乗るとしましょう。さて、その先ですが、実際にいすみ鉄道に乗れるのか、行く手段はあるのか、旅行会社の商品があるのか、自力で行くのかという実際の計画になります。その旅行商品を買うことができて、天気が荒れなければ、やっと旅行の実施となります。これが初めての方を得る時に経なくてはならない長い、長いプロセスです。ですからこのプロセスを勝ち抜いて新規顧客を得るためには、大きなお金がかかります。どのくらいのプロモーションを打たなくてはならないでしょうか、砂浜に水を撒くようなそのようなコストのかけ方もあるいは必要になってくるかもしれません。でも、それは高くつきます。しかし、一度来ていただいた方をリピーターにすれば「認知」、「興味」、「検討」というお金のかかるプロセスは飛ばすことができますので、リピーターはありがたいですね。新規顧客獲得コストはリピーターの4倍から5倍はかかるとマーケティングの世界では言われています。リピーターを大切にして、プロモーション等のPR費用を軽減し、さらにリピーターは気に入ったら自分で「ここは良いよ」と宣伝してくれます。勝手に営業してくれますのでそのような人をたくさん作っていくことが大事だと思います。ただ、リピーターというのは目がだんだんと肥えてきますから、本物のサービスを提供し続けていかないと、そっぽを向かれてしまいます。
初回訪問者をリピーターにするための魅力と、新規顧客を獲得するための魅力とは別の魅力です。これをプロの観光地だと自認する地域であっても混同するケースが見受けられます。自分でやっているイベントも何のためにやっているのか分からなくなって、イベントを打っても人が来ないというような話になることが多いです。
⑦重層的な魅力が必要
徹底的に観光客、旅行者の目線に立ってください。旅行者は旅行前に目的地を選び、旅行計画を立てます。まずは主要な観光目的地に行きます。行ってその場所に泊まって時間の余裕があったら、もうちょっと回ろうということになり、食事やおみやげ購入という行動になります。初めての人を引っ張ってくるには、「距離を超えてでも集客できる尖った魅力」が、明確で直ぐわかる魅力が必要です。ここで、「うちの地域はこれもあります、あれも色々あります」というふうに説明したらアウトです。日本には質の高い観光地がたくさんあります。日本は観光資源の質の高い国です。その中でお客を獲得するのは地域間競争です。勝っていくためには明確で頭に残るメッセージをまず最初に立てる必要があります。もし、皆さんの地域にこのようなメッセージを立てることができる魅力が既にあるのであれば、それを、エゴを言わずに使ってしまうというのが一番で、距離を超えて集客できる魅力を新たに探して一から立てるのはたいへんな時間とコストがかかります。
「来てみて発見する地域の魅力」、来てみたらこんなに良いところ、こんな良いことがあった、と旅行者が自分で発見する地域の魅力が後ろに用意されているという重層構造になっていないとリピーターにはならないのです。ここを混同していろいろなイベントが打たれているのは寂しいと思います。大切にしていただきたいのは、宿泊という機能には、来てみて発見して楽しかったけれど、ちょっと応対が悪かった、というような不満をリセットする力があります。お風呂に入って美味しいものを食べてぐっすり眠って、おいしい朝ごはんが提供されると大体の不満は低減されます。その時にこのようなところも回ってみたらと仲居さんがささやくと、もう大丈夫ですね。お薦めするタイミングもあります。そして地域のお土産のように持ち帰りできるものは、自分で持って帰ってもらうと日常生活に戻ってもまたその地域を思い出します。私はいすみ鉄道で買ったムーミンのマグカップを見るたびに、いすみ鉄道とムーミンに似ていらっしゃる社長さんのお顔を思い出します。(笑)次の旅行までの間に地域のイメージを繋いでおけるのは、「モノ」です。そういった重層的な魅力を組み込むということがとても重要になってきます。
⑧旅行実施率の低下
実は、旅行の実施率が下がってきています。若い男性、若者が旅行に行かなくなっているのです。でも悲観しないでください。実施率が下がってきたということは、旅行会社に商品企画力がないということです。ちゃんとした企画があれば行くと若者は言っています。家族旅行についても、子どもによい旅行をさせたいと思っている人が8割から9割です。行きたいという気持ちは強いのですが、それに見合う商品やプログラムが自由な発想で開発しきれていないところがあります。
また、良い商品を開発しても呼んでくるチャネル(販路)が旅行したい人と合っていないと旅行者を捕まえることができません。良い商品を開発し、お客様を掴んでくる機能が必要なのですが、この掴み方が今難しくなってきています。右肩上がりの時代は大手旅行会社の力のある送客事業者に、今度は旅行先を自分の地域にして、とお願いすれば良かった。しかし今は旅行自体をしないので旅行事業者は新しいお客様を捕まえることができなくなってきました。大凡データを取ってみましたら、全観光の予約の3分の1ぐらいがJTBや近畿日本ツーリストなど旅行会社の店舗販売、3分の1がじゃらんや楽天トラベルのインターネット系、3分の1が自分で行っています。そのような構成になっている中で今までの送客事業者に頼りきることができないという状況が出ています。ここからは知恵のあるものが勝つという世界だと思います。

やわらか頭で、ターゲットをつかまえよう
やわらか頭で、ターゲットをつかまえようということですが、「カピバラ」というキャラクターはご存知でしょうか。実物のカピバラは、あまりめんこくない(可愛いくない)のですが、アニメになるとこんなに可愛いのです。20代から30代の女性に圧倒的な支持があって、このカピバラさんのサイトの後ろには2万人から3万人の女性フォロワーが居てコミュニティができているというキャラクターです。
このキャラクターは、「温泉が好き」と設定されていますので、これだ!と思って観光庁に居るときに予算を頂き、長野県の渋温泉にお願いして、温泉街をカピバラでジャックしていただきました。ノボリを立て、カピバラまんじゅうを作ったり、各旅館に一部屋か二部屋をカピバラルームというのを作ってもらいました。布団に大きなカピバラの布が敷いてあって、チープシックなのですが、良い感じのカピバラルームに仕立てて頂きました。なぜ、渋温泉かというと、ここはとてもまとまりの良い温泉街でしたから、温泉街自体をカピバラジャックすることに協力を得ることができたのです。旅館の女将さんたちを集めてこのカピバラの着ぐるみに入ってもらい、カピバラの動きなど練習してもらいました。
渋温泉の旅館単価は一泊平均で1万2000円から1万5000円ぐらいです。カピバラルームでは2万2000円から2万5千円で出してもらいました。全部で100室、3日で完売しました。そして大震災が起きてしまい、予約が6割まで減りました。でも長野は大丈夫そうだということが分かって、その2週間後に再度完売しました。そのチャネルは、何十万人も抱える楽天トラベルのサイトからではなくて、このカピバラのホームページから楽天トラベルに入ってきた人によって予約の8割を売り切ったのです。
20代、30代の女性がお母さんを連れて見えました。お財布はお母さんです。感覚を研ぎ澄まして、今時のコミュニティなども上手に使っていくと、意外に大きい金脈を掘り当てることができます。

地域戦略に取り組む
旅館のなかには地域経営に取り組んでいる方々がいらっしゃいます。そのような方のやり方を地域鉄道の人も学んでみたらいかがかと思っております。
地場産業には、米、味噌、醤油、木工、家具等いろいろなものがあります。伝統の文化、生活文化もあります。今旅行のコンテンツとして一番重要なのは、地域独自の生活文化です。そのようなものを見せてくれる方々、知恵や工夫という無形のものがとても重要ですが、旅館が地域のすべての窓口のような格好で、旅館という空間に来ると地場のお米も野菜も器もリネンも家具も建築様式も生活様式もすべて味わえるという、地域・生活・文化のワンストップ空間のような形で設えている旅館経営者が出て来ました。地域のすべてを旅館で見せていこうということで、それこそ地域の光にあふれた空間ということになります。域外から来る方に一泊二食、あるいは二泊、三泊で見せて体感していただくとその方々はどうなるでしょう。美味しかったお米を取り寄せができないかしら、このお味噌はどこで買えるのかしら、ということになります。生活文化を体験していますから、地域のファンにもなります。これを自分の旅館のお客さんとするだけでなく、味噌を醸造している事業者や、器を作っている事業者の方々に、顧客を送り出す送客事業者ともなっています。味噌屋で後継者不足で廃業しようという時、この旅館で一定の需要量が見込め、年間これだけの消費を確保するから、その樽ひとつをうちのために作り続けてほしいとお願いしながら、地場の産業を存続させていくというところまでやっている方が何人か出てきています。このような考え方を地域鉄道でも応用して、あるいはこのような旅館と提携しながら一緒に地域経営というものに乗り出していくことが良いと思います。

見せ方、言い方、伝え方
成功事例に学ぼうということで、阿蘇カルデラツアーを紹介したいと思います。旅行商品の作り方として地域の皆さんで一緒に作ろうとすると価格を安くしようという落とし穴に向かうことがあります。九州の阿蘇の外輪山でカルデラを見るというツアーがありました。元々は一人500円というツアーでしたが、雨が降ればできないし、星を見るので雲が出れば出来ないしということで、全く採算に乗りませんで、もう止めようかという話になっていました。それを誰でも参加できる500円のワンコインツアーから、特定の温泉、内牧温泉に宿泊した人だけの限定した1人2000円のツアーとして生まれ変わらせました。そうしましたら2011年には800名の目標に992名でかなりのお客様を得ることが出来て、単価が4倍になっていますから工夫もできるということに仕立てていきました。何をやったかと申しますと、ストーリーを作ったということが非常に大きいことです。星空ツアーということでやっていますが、まず最初にガイドさんから「ここでしか味わえないものです」という希少価値、宿泊したあなた達だけが味わえますということをちゃんと説明しました。そして次に阿蘇にしかない魅力を演出して観光客のハートを掴むことです。難しいことではなく、用意したのは大きなブルーシート4、5枚。このブルーシートを持って阿蘇のカルデラの広いところに向かいます。真っ暗です。そのブルーシートを敷いてお客様に寝転がってもらいます。これだけ、これ以外のことをしません。30分間、バスのエンジンも全部切って、ガイドも黙ります。都会でネオンにまみれている人たちからしますと30分の極上の闇というものは、地域の自然と一体になり、地域の胎内に抱かれているような気持ちになることができるのです。そうすると、星が見えなくても風や虫の音、空気のにおいといったものが五感に染み渡ってきますので、星が見えなくても良かったということになります。その後で、この地域の説明をします。そうすると肌寒くなってきますが、バスに乗ると温かい地元のドリンクが用意されていて、これまた良かったということになります。単純ですが、お客様がどこで、どう感動するかを読み込んでストーリー立ててつくると単価も4倍にできるということであります。「見せ方、言い方、伝え方」が大切です。同じものでも伝え方を変える、ここが知恵と工夫だと思います。

まとめ ―収入増への解は、三方よし―
今申し上げたようなことをご留意いただいた上で、地域鉄道の皆さんの観光振興の極意は、「三方よし」と言うことだと思います。「地元の産業にとってもよし」、「来てくれる利用者の方にとってもよし」、そして「地域鉄道の皆さんにとってもよし」、この三つを一生懸命模索していくところにたぶん「収入増」の解があるのではないかと思います。鉄道ご自身が魅力的な観光資源になるということ、既にある地域の観光資源と組んでやるということ、重要なことは自分の所で呼んできた観光客を地元の地域に案内する、案内というのは実際に地元を歩いてもらう、産品を買ってもらうということですが、地域を知ってもらう窓口、地域の光を観てもらう最初の窓口として機能することが素晴らしいかなと思います。
もうひとつご紹介したいのが、静岡県島田市とやった事業があります。「家族との時間づくり」というのです。家族との時間が出来れば7割ぐらいは旅行に行くのですが、家族の休みを合わせることは大変なことです。これが家族旅行の阻害要因にもなっています。お父さん、お母さんが働いていると有休が取れませんし、子どもは学校が忙しい、その中で家族旅行しようというと年末年始、お盆、ゴールデンウイークということになってしまいますが、そうでなくて、それ以外の時にもできないかということで島田市に協力をしていただきました。10月の体育の日は通常でも3連休ぐらいしかなりませんが、4連休にしてくださいとお願いしました。実は学校休業日というのは教育委員会が決められるのです。文部科学省の許可はいりません。学校の休業日を決める権限は都道府県の教育委員会に委ねられています。都道府県の教育委員会は、地域ができるのであれば地方自治体の教育委員会にそれを委ねています。さらに学校長に委ねているというところもあります。杉並区などはそうです。学校の休業日というのはしかるべき人にお願いすると動かすことができるのです。
ということで、お願いに行きました。ハッピーマンデー・プラス・ワンで4連休作ってくださいと島田市当時の桜井市長さんにお願いしましたら、「良いですね。オッケーです。ではその時にSLの乗車体験ができるSLフェステバルをしましょう。」とおっしゃいました。さらに島田市の公共施設全部を無料開放、地域のコンビニはSL弁当を作ってくれました。商店街はセールをやると言ってくれまして、4日間地域を上げて盛り上がろうとしてくれました。その核になったものがSLフェスタです。他所から観光客が来るということでなくて、地元の方々が、地域鉄道が非日常空間となっている中で、口実をもって清々堂々と楽しめるわけです。お母さんと乗っている子供や、お父さんに連れられてきた子供さんもいましたが、イベントを通じて地域の人に地域鉄道を分かってもらうのです。車両のデザインですばらしい仕事をされている水戸岡鋭治先生が私に教えてくださった言葉ですが、「車だと子供は親の後ろ姿しか見えていないけれど、鉄道だと親子が向かい合って一緒にお弁当を食べることができるね。一緒の景色を見て語り合うことができるよね。そこが車と決定的に違うこと。だから僕はそのようなことができる鉄道車両をつくりたい。」と。お父さんとでもお母さんとでも地域の子供さんが一緒に乗っていただくというようなことをぜひ併せてやっていただければと思います。
そのようなことをされていきますと、地域鉄道の再生活性化の道はちゃんとあって、地域ぐるみでみつけて、地域に愛される鉄道に戻りましょうということだと思います。地域と共に歩み、地域活性化の一翼を担う、地域鉄道があった方が地元の経済にとって良いと思わせるそのようなポジションを担っていけるようになっていくと道が見えてくると思います。
以上、私の話で少しでも皆様に何かお持ち帰りできることがあればありがたいことと思います。(拍手)

地域と共に歩む鉄道 吉田千秋ひたちなか海浜鉄道社長

万葉線での経験
矢ケ崎先生のお話を受けて、私がいました万葉線の設立経緯からお話をしたいと思います。平成14年に第三セクターの万葉線株式会社ができました。車が普及して路面電車のお客様がどんどん減って行き、立ち行かなくなった加越能鉄道という会社が、もうこれ以上事業は続けることはできないと表明して鉄道の廃止を申し出たことにあります。それまでは、鉄道事業者が廃止宣言をするとほぼ100%廃止になっていました。ごく例外として栗原田園鉄道がありましたが、それ以外は、国鉄の転換線で残った鉄道以外は全部廃止になっていました。
ところが、この万葉線につきましては地元の人がとにかく残してほしいと非常に熱心に存続運動を行いまして、その結果、行政と市民の皆さんと事業者が三位一体になってやっていけばなんとかなるのではないかということになり、第三セクターの会社を作って経営を引き受けさせました。
会社は今まで以上に努力をしなくてはいけない、行政は最低限の補助をしなくてはならない、住民は責任を持って経営に参画しなくてはいけないということで、本当の意味での三位一体の第三セクターとして発足しました。第三セクターというと責任が曖昧で経営破綻する例もあったので、当時「第四セクター」という呼び方をしました。
しかし、どう経営を頑張ったとしても年に6000万円程度の赤字は出るだろうと予測されていましたから、その赤字については行政が負担しますが、それ以上の赤字の補てんは困難であり、そうならないように頑張りましょうということでスタートをしました。すると、100万人を切っていたお客様が以後5年間増え続けて114万人まで回復しました。赤字の方も当初予定の6000万円を切って5200万円から5300万円まで縮小いたしました。
皆で一緒に頑張れば実績も上がるという道を指し示したのが万葉線です。この万葉線の誕生以降、鉄道は廃止を免れて残るものが多くなってきました。廃止と残るものの比率は大凡半々で、岐阜市内線であるとか日立電鉄は廃止になりました。

ひたちなか海浜鉄道湊線の再建
残ったものの中にひたちなか海浜鉄道湊線があります。
その再建の考え方は、万葉線と同じ考え方で行うこととなりました。市民の皆さんの応援、行政の支援、そして事業者が頑張れば再建ができるであろうということで、社長公募があった時、万葉線での経験のある私が選ばれた訳です。
社長になりましてからいろいろな増客増収策をやって参りました。減るばかりにあるお客様が、努力したらどのくらい増えるのかを試算してみましたのでご披露します。
定期外旅客を増やすためには、団体誘致やフリー乗車券の発売をしたり沿線の観光地とタイアップしたり、マニア向けに硬券を作成したりいたしましたが、それらの施策を合計しますと、75,487人となりました。全定期外旅客数は344,022人ですから、これらの施策を行ったことで2割強のお客様が増えたことになります。これだけやってもまだ2割しか届かないというのが正直な気持ちでもありますが、もし仮にやらなければ26万人のお客様であったわけです。
観光面では団体利用の促進と、ひたち海浜公園とタイアップしたセットクーポンの発売を行っています。ひたち海浜公園は、当鉄道の終点阿字ヶ浦駅から2キロ弱のところにある国営公園です。ここの入園者のほとんどが車で来るか、勝田駅からのバスを利用していました。しかし、阿字ヶ浦駅からは近いので、鉄道も利用してもらえるかもしえないと、市から補助金をいただいて阿字ヶ浦駅からひたち海浜公園まで無料のシャトルバスを出すことにしました。また、鉄道の通常800円のフリー乗車券を720円と1割引きし、ひたち海浜公園の入園券も400円を260円にしてもらって合計1000円で入園券とのセットクーポンを売り出しました。その結果、11,037人の方に利用をしていただきました。湊線全体の輸送人員が78万8千人ですから、そのうちの1万人といえばたいへん大きな数です。
しかし、ひたち海浜公園の年間の利用者は100万人を超えていますので、湊線の利用者は1%にしかなっていません。ということはもう少し頑張ればなんとかなる、まだまだ伸びる余地があるということと思っています。
なにより嬉しかったことは、この湊線を利用していただいたお客様のうち、3割程の方はそのまま真っ直ぐ勝田まで帰ってしまわれずに、途中の那珂湊の駅で降りていただき、古い街並みを巡っていただいたり、おさかな市場に寄っていただいていて、若干は地元への活性化に寄与できたのではないかと考えています。
さらに大きいのはJRとの連携です。JRのウイークエンドパス、現在週末パスに名前が変っていますが、土曜・休日の連続する2日間利用できる8700円のパス利用経路にひたちなか海浜鉄道も組み込んでいただきました。売れた枚数で計算がされるのですが、その結果なんと15,750人、466万円余の収入を得ることができました。ひたち海浜公園とのセットクーポンの発売ではたいへん努力が必要でしたが、こちらはJRさんで発売していただいてお客様が来ていただける(笑)、なんともJRさんの力はすごいと思いました。JRさんと連携していなかったらきっと来ていただけないお客様であり、おかげで沿線の街も潤ったのではないかと思っています。

市民からの認知、支援を受けて
かつて年間350万人いたお客様は平成20年には70万人まで減り、茨城交通がとても経営できないということで手放すことになった湊線ですが、当時の市長さんが、「うちは公共交通をないがしろにする町ではない」と、半ば強引に鉄道を存続する方向に持っていったところがあります。ですから当初は市民の方に湊線を残して良かったかどうかお聞きすると、3人のうち2人の方からは、残ってよかったと言っていただけますが、1人の方からは、税金を使ってまでなぜ残したかと言われました。それが1年経ち2年経ち、お客さんも増え、実績も上がっていくとだんだん広く認知を得ることができて、2年後のある大学の湊線に対する意識調査の結果では、税金を使ってでも残して良かったという肯定が80%程となりました。認知度も上がってきたと喜んでおりましたら、平成23年3月11日に東日本大震災でたいへんな被害にあいました。線路はガタガタになり、その復旧には3億円程が見込まれまれ、期間も4か月ぐらいかかることとなりました。市の臨時議会が開かれまして湊線の復旧予算を付けることを市議会にかけていただき、嬉しかったことは、それが満場一致で認めていただいたことです。今まで自分たちがやってきたことが認められ、議会100%の方に認知していただいたということでたいへんありがたく、また心強く思った次第です。そして7月23日に全線復旧を果たすことができました。

街と共に
湊線の観光地としての魅力は、そのひとつが先ほどお話ししましたひたち海浜公園であり、もう一つは那珂湊駅近くのおさかな市場にあります。
その良さを元に、鉄道で街全体を活性化できないかと、新たな試みを始めております。農家の方から、大規模に野菜を作ってはいないけれど、出来れば出荷したいが場所が無くて困っているとお聞きしたので、では持てる分だけ駅へ持ってきていただいて朝市をやろうということになり、第一日曜日の那珂湊駅ホームに朝採れの野菜を置くことになりました。これが定着し、人気を呼び、最近では野菜だけでなくお魚の街だからと漁協の方からも出してもらえませんかということになり、干物を売り始めました。これがまた一夜干しで、塩甘、絶妙の味と評判を呼びました。そうすると近所の秋刀魚の甘露煮のお店も出店を希望してきました。その方が他にも声をかけ、また増えました。そのようにして段々と広がって、今度は骨董を売りたいという話まで広がって、ちょっと困っています。
途中で震災もありましたがお蔭様でお客様は昨年度78万8000人とひたちなか海浜鉄道発足以来最高値を回復し、経常赤字も当初は3,000万円からスタートしましたが、昨年度は3,000万円を切るところまで持ってくることができました。私は20年度から5年間社長をやらせてもらって、今年で6年目に入ります。当初5年間で一度様子を見るというお約束でしたが、今後の5年間の予定も立てろと言われましたので、今しばらく居られるのか、そこはわかりませんが、いずれにしましても向こう5年間で何とか赤字を1,500万円以下に持っていきたいと思っております。
経営の苦しい他の鉄道の多くが固定資産を減免されていますが、湊線の場合は、税金は払うということで、毎年1,500万円程の固定資産税をお支払しています。一方、赤字が出た場合は、固定資産税相当額を湊線への補助金として支出していただけるというお約束になっており、もし、それでも不足する場合は、修繕費の範囲内で茨城県とひたちなか市が半分ずつみていただくということで、この5年間をやって参りました。
これがもし赤字額1,500万円を切ることができれば、固定資産税は1,500万円お支払して、補助としていただく分は1,500万円以下になりますから、幾分でも市にお金を残すことができ、市にプラスになっていると言えるようになります。

おらが湊鉄道応援団
湊線にはおらが湊鉄道応援団という応援団がありますが、地元の人から湊線はいらないと言われたらおしまいですので、市長さんの戦略で、地元の人たちで盛り上がれるものを作る、ということでこの応援団ができました。
地に足のついた組織を作るということで、沿線自治会の会長さんを皆集めて、そこで市長から、実は鉄道があぶない状況にあり、沿線で盛り上げる応援団の必要性を説いたわけです。おそらく市長の頭には団長になって束ねていく人まで考えておられたと思います。自治会長の皆さんはそれまで鉄道無縁な方々でした。ひたちなか市は日立製作所の企業城下町でありまして、日立製作所OBも多く、レベルの高い自治会組織活動をしていました。ですから応援団の組織づくりもお手のもの、利用促進委員会、広報委員会など作って、そこに自治会長さんが割り当てられ活動がはじまりました。いくつか委員会はありましたが、広報委員会は最後まで残るだろうと言われていましたが、そのとおりになりまして、その広報委員会の人たちの活動がなんともすごいものでした。今その方々にお聞きすると、「はるか富山県から見も知らない43歳の社長が来る、外の人に苦労をかけてはいけない、外の人からこのようなものはダメと言われるのは地元としての恥である」と、活動をしていただいたとのことです。本当は、外から来た人では足りないからフォローをするためではなかったかと私は思っています。
この応援団のお蔭で最初の年からお客様を増やすことができました。自分たちの鉄道は自分たちで守らなくてはいけないとしっかり考えていただいたその上で色々なことをしていただきました。自治会の遠足で鉄道を利用していただくとか、飲んだ時には鉄道を利用するとか、沿線の旅館の送迎バスはJRの勝田駅まで結んでいましたが、それを那珂湊や阿字ヶ浦までとして湊線を利用するように仕向けていただいたりしました。そのようにだんだんと市民の力が前に出て来くるようになると、今では市民の方々の生活の一部として湊線を見ていただいています。
昨日この応援団の総会がありまして、どういう訳か私はいつも来賓として呼ばれます。行きましたら質問がありまして、JRとの直通運転はできないのか、以前に聞いたときは水戸と勝田の間の線路容量というものが足りないと聞いているが大丈夫ではないかと、まるでプロのような質問が出ました。また終点の阿字ヶ浦から海浜公園まで路線を伸ばしてはとの話もありました。その際には高架にして海が見渡せるようにしたらいかがかとか、ハイレベルな質問や話に対応して、本当にこの方々は自治会長さんなのかと思ってしまいました。(笑)
応援団の方から「この間、駅の掃除に行った」とお聞きし、「それはありがとうございました」、と申し上げたら、ありがとうと言ってくれるのは社長だけ、人のところに掃除に行っているのにあいさつひとつ言わない駅員や運転士が居ると言われてしまいました。この5年間で社員の対応は良くなってきていますが、まだまだ足りないことは承知しています。そこで、茨城交通時代はどうでしたかと聞くと、最初から諦めていたからと言われました。苦情も言っていただけることはたいへんありがたいことです。

ひたちなか市から広く発信
観光地とのタイアップもできてきましたし、延伸の話でも誰も税金の無駄遣いとは言わないで、なんとか延伸できないかという話になってきています。事業自体も赤字額を圧縮できそうというところまできており、一生懸命、ちゃんとしてツボを押さえたことをやっていればどうにかなっていくものだということを、身をもって体験をしています。
そこで、自分たちのやってきたことをきちんと整理して、他の鉄道の例もたし込むと地域鉄道と地域の活性化のためのシナリオをつくることができるのではないかと思います。これをひたちなか市から発信しますと、ひたちなか市のネームバリューも上がり、「鉄道と地域の活性化についならまずひたちなか市に聞いてみよう」ということになれば、地域のブランド化ともなりますし、受講料をいただければ収入にもなります。
そこで、ローカル鉄道地域づくり大学のようなものを作りたいと、昨年はサマースクールをやりました。大変評判が良かったことから、今年もサマースクールを8月24日、25日、8月31日、9月1日に開講します。そこでは鉄道の増収策実施による効果計測の結果や、全国的な鉄道再生の成功例の分析、関係者のコンセンサスの得方等お示ししたいと思っています。そのプレイベントとして8月24日に京都大学の中川大先生を招いて鉄道の活性化についての450人規模のシンポジウムを開催しますので、ご興味ある方はご参加ください。
矢ケ崎先生からコロプラの位置ゲームの話が出ましたが、コロプラのほかに全国制覇駅コレクションというのがあります。これも面白くて癖になります。出張に行きますと用がなくても鉄道に乗ってしまうほどです。なかなか楽しいのでこれも湊線に取り入れてやっていきたいと思います。
旅行商品につきましても、阿字ヶ浦では列車の窓から夜空を見ていただき、帰りは古い列車ですから、昔の夜汽車の気分を味わっていただいてお帰りいただく等、色々なことを考えております。
そのようなことをこれからも仕掛けながら、お客様をさらに増やしていきたいと思っております。
交通環境整備ネットワークの愛称はエコトラン(ECOTRAN)と言い、鉄道の関係者をゆるやかに結びつけるという意味で発足しています。この「ゆるやか」という言葉は私の肌に合っています。私がひたちなか海浜鉄道で5年間やって来ることができましたのも、市の方から改革は急激にやらなくても良いと言っていただき、私ものんきな性格ですから、「ゆるやか」にやって参りました。全国の鉄道の中には、1年間で実績を示せ、1年間で赤字を縮小しろとかいわれている鉄道がありますが、そのようなことを私が言われたらまず出来なかったと思います。
人材というのは適材適所があると思います。そのようなことも含めてひたちなか海浜鉄道が行なってきたことが一つの指針になれればと思っておりますので、私どもを参考にしていただければ幸いです。本日はありがとうございました。(拍手)

講演録の詳細版はこちらから 講演録へ詳細講演録(pdf)

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