地域鉄道フォーラム 「暮らしと鉄道」-使いやすく安心安全な地域鉄道を目指して- の開催

一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催/国土交通省鉄道局後援

一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催、国土交通省鉄道局後援による地域鉄道フォーラム「暮らしと鉄道」-使いやすく安心安全な地域鉄道を目指して-を6月13日(土)東武博物館ホールで開催しました。

 はじめに、来賓の国土交通省鉄道局鉄道事業課長の大石英一郎氏からご挨拶と地域鉄道の現状、それにかかる法整備並びに支援措置について説明をいただき、その後、国土交通省総合政策局公共交通政策部参事官岩城宏幸氏から「交通政策基本計画と鉄道」と題して基調講演をいただきました。

  休憩の後、愛知学泉大学現代マネジメント学部講師田中人氏がコーディネーターとなって、わたらせ渓谷鐵道株式会社社長樺澤豊氏、江ノ島電鉄株式会社相談役深谷研二氏、国土交通省鉄道局旅客輸送業務監理室課長補佐猪狩浩伸氏、東京神谷町綜合法律事務所弁護士小島好己氏の5人によるトークセッションが繰り広げられました。

期 日:平成27年6月13日(土) 13時00分~15時15分
場 所:東武博物館ホール
   東京都墨田区東向島4-28-16 TEL 03-3614-8811(代)
   東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)東向島駅下車0分    
参加費:無料。ただし、東武博物館への入場料大人200円、小人100円が必要。
参加人員:115名

プログラム
1.来賓あいさつ 国土交通省鉄道局鉄道事業課長 大石英一郎 氏
2.基調講演 「交通政策基本計画と鉄道」
  国土交通省総合政策局公共交通政策部参事官 岩城宏幸 氏

3.トークセッション「使いやすく、安全な地域鉄道を目指して」
   ―交通政策基本計画を踏まえてトークを展開―
   コーディネーター/愛知学泉大学現代マネジメント学部講師  田中 人 氏
   わたらせ渓谷鐵道株式会社 社長       樺澤 豊 氏
   江ノ島電鉄株式会社 相談役         深谷研二 氏
   国土交通省鉄道局旅客輸送業務監理室課長補佐 猪狩浩伸 氏
   東京神谷町綜合法律事務所弁護士       小島好己 氏
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講演録概要

1.来賓あいさつ
国土交通省鉄道局事業課長 大石英一郎 氏
 はじめに、来賓の国土交通省鉄道局鉄道事業課長の大石英一郎氏からご挨拶と地域鉄道の現状、それにかかる法整備並びに支援措置について説明をいただきました。
 地域鉄道は、地域の生活を支えるとともに地域外との交流の基盤となっており、これを維持していくためにどのようなことを進めていくべきか、がテーマである。
 少子高齢化は、輸送人員の母数が減って行くということではあるが、一方では、自動車を運転しない方も増えていくという意味では公共交通への役割が高まり、需要としても増える面がある。
 地域鉄道事業者自身が地域と協働しながら取り組みを進めていくことが大事であり、その取り組みを通じて次の世代に鉄道が活かされていけるよう目指したい。
そのためには、皆の理解と協力が必要であるとの指摘をされました。

2.基調講演 「交通政策基本計画と鉄道」
  国土交通省総合政策局公共交通政策部参事官 岩城宏幸 氏
 国土交通省総合政策局公共交通政策部参事官岩城宏幸氏から「交通政策基本計画と鉄道」と題して基調講演をいただきました。
交通政策基本法は、「今後交通を守って発展させていくために、どのような目標をもって、どのような方向性で政策を進めていくのか」が書かれており、ここでの理念、方向性をより具体的に政策として示したものが「交通政策基本計画」であり、2020年というオリンピック・パラリンピックを見据えたものとなっている。
 その特徴としては、交通を総体として捉えた政策体系としていること、計画を進めるにあたっては、国土形成計画と社会資本整備重点計画と併せて三つの計画が互いにリンケージを図り、パッケージとして進めていく。
 計画の骨格は、次のA、B、C三つの枠組みにから成っている。
   A 「豊かな国民生活に資する使いやすい交通の実現」
   B 「成長と繁栄の基盤となる国際・地域間の旅客交通・物流ネットワークの構築」
   C 「持続可能で安心・安全な交通に向けた基盤づくり」
 これまで交通に関しては、交通事業者に任せ、空気のように当たり前に存在しているとの意識があったかもしれないが、これからは、国、地方自治体、交通事業者はもちろん、国民も法の基本理念を理解して、協力、努力が必要である。
 交通政策基本計画の内容を地域鉄道との具体的な関連を示して、分かりやすくご講演をいただきました。

3.トークセッション
 愛知学泉大学現代マネジメント学部講師田中人氏がコーディネーターとなって、わたらせ渓谷鐵道株式会社社長樺澤豊氏、江ノ島電鉄株式会社相談役深谷研二氏、国土交通省鉄道局旅客輸送業務監理室課長補佐猪狩浩伸氏、東京神谷町綜合法律事務所弁護士小島好己氏の5人によるトークセッションが繰り広げられました。

Session 1:使いやすさとは

田中 人(コーディネーター)
 地域の交通を再構築するという話の背景には日本社会の抱える構造的な危機の問題があり、これを三つに整理すると、ひとつは「持続可能性」、二つ目は、「コミュニケーションの喪失」、三つ目は、「格差」ではないか。公共交通としての地域鉄道を再構築する、持続可能性の高い鉄道を再構築していくという時に、「コミュニティ鉄道」としての意識をどこまで持っていくことができるかが問われることになる。
 交通政策基本計画の話を踏まえ、「使いやすさ」、ユーザービリティについて論じたい。


小島好己 -地域交通を一体的に考えることは大きなできごと-
 利用者からみて、使いやすくなければ使わない、使いにくい鉄道は使えない。
 使いやすさを考えると、駅から離れている人が鉄道を利用して、駅から離れた目的地まで到達する一連の流れがしやすいかにある。
 今回、交通政策基本法、それから交通政策基本計画で、鉄道を含めた地域交通を一体のもの、総体のものとして捉えて全体的な利便性を上げようと考えはじめたことは、大きなできごとではないか。


猪狩浩伸 -誰でも利用でき、使える-
 鉄道には鉄道の良いところがあり、それは、「誰でも利用でき、免許を持っていない方も使える」こと。また、「速達性」、「定時制」、「大量性」に優れた特徴を有している。
 使いやすい交通の実現においては、鉄道だけではなく、面的にバス等と連携して使いやすくすることが必要。さらにバリアフリー、ICカードの普及や、外国客のための多言語標記等にも取り組んでいく必要がある。


深谷研二 -1902年に路面電車として開通-
 江ノ電の開業は1902年(明治35年)藤沢から、現在の江ノ島の間3.4キロが第一期の開通で、その8年後に鎌倉まで全線開通した。
 当時は、軌道の認可で、いわゆる路面電車であった。昭和20年に地方鉄道に切り替わっているが線形は当時のままで急曲線、S字カーブが多く、車両も古い車両があり、その保守に現場も苦労している。
 踏切は50箇所で、全部第1種甲の設備を備えているが、これとは別に、プライベートの横断場が百か所以上あり、見通しの悪いところで、運転士がこれを如何に安全に運転するか日頃から気を使っている。
 バリアフリー対策については、点字ブロックはすべて整備。列車非常停止装置も有人駅以外を先行してほぼ整備。
 車両については、車内表示装置はインバウンド対応で4か国語対応を行ない、転落防止等の整備を行なっている。
 時刻表はパターンダイヤ化し、藤沢駅に観光情報インフォメーションを設置する等情報提供を強化。
 災害時時に津波避難ハンドブックを作成し配布、江ノ電の防災対策の取り組み等お客様へ情報提供を行ない、各駅での避難場所、避難ルートを周知している。
 会社の経営理念をつくり、経営者も、第一線の社員も共通の目標、共通の意識を持って安全安心と地域貢献に取り組む。

樺澤 豊 -開業百年、わたらせ渓谷鐡道として25年-
 わたらせ渓谷鉄道は、昨年足尾鉄道が全線開業して百年、わたらせ渓谷鐡道となってから25年で、四半世紀をわたらせ渓谷鐡道が担った。
 景観は大変素晴らしく、そこには「静」の美があり、列車に乗らないと見えない景色がたくさんある。
 観光のお客様が多く、また施設も古くなって、修繕も追いつかないところもあり、スピードアップよりスピードダウンを目指すという考え方で対処。
 沿線の自治体は、桐生市、みどり市、日光市で、総人口で平成6年から平成26年までに10%減っており、これが鉄道沿線では20%減っている。
 わたらせ渓谷鐡道となって25年が経ち、沿線市民が鉄道を残そうという意識が薄れてきていることが問題。
 沿線地域は限界集落に直面しており、ここをどうやって活かしていくか。そこにはドラマがあるので「無いものねだりより、あるもの探し」を行なって、流動人口を増やす。
 古い体質から脱却して、社員は問題意識を持ち、こだわりを持って、安心安全につなげていく。
わたらせ渓谷鐡道市民協議会からは様々な支援をいただいている。
 ハードを整備する部分ではなかなか追いついていけないところを人のネットワーク、アナログでカバーしようと思っている。

Session 2 使いやすくするためには

 地域鉄道をより使いやすくするためにはどうしたらよいか、今回のテーマを整理する意味で、長野県の梓川高校放送部がつくりました「なぎさのランウエイ」というビデオを上映し、その後トークを展開しました。

小島好己 -協力体制が必要-
ビデオのタイトルがとてもかっこ良く、ワクワクしながら見たが、最後落とされた感。
事業者の方も高校生の方も、お互い無関心であったということを、率直に思う。
 今、「無くなってもよい」と思っている高校生のその子供たちは、さらに無関心になるのが間違いない。
 せっかく交通政策基本法ができて、交通政策基本計画ができて、鉄道単体ではなくて地域全体の交通網の整備をしていこうという意識ができてきているので、その前提として地域の方々が関心を持つ、持たせるよう努力が必要。
 ランウエイとは舞台のこと、乗客が減って、その舞台を眺めるのに税金をつかってチケットを買うことになっては悲劇的であり、それ以前に協力体制をつくりあげていくのが緊急の課題ではないか。

猪狩浩伸 -駅へのアクセスを含めて改善が必要-
 学校のすぐそばに駅があるのに使わなくなっている実態は何なのか。
 高校生の住んでいるところからみれば、駅に行って電車に乗るよりも直接学校に自転車で行ったらドア・ツー・ドアで早いとか、それぞれがおかれたロケーションでの要因もあるのではないか。
 駅へのアクセスを含めての改善が必要であり、交通政策基本計画の中の再構築は、鉄道だけでなく、二次交通を含めてネットワークとして再構築するということになっている。
 まちづくりを含めた自治体との連携が必要であり、新駅の設置も効果があるのではないか。

深谷研二 -使いやすくするためには、安心感の提供-
 江ノ電は「海」、アルピコ交通は「山」とそれぞれ観光資源をたくさん持っており、藤沢市と松本市は姉妹提携も行なっているということもあって、アルピコ交通とは観光連携を結び相互交流を図っている。
 「使いやすくするため」を考えると、究極は「安心感」にあると思う。
 観光路線としても地域の方にも、少子超高齢化の中で、乗っていただくためには、お客様に安心を如何に感じていただくかにある。
 異常時対応が大事で、地震、台風といったものへの態勢がきちんとできていることが大事。観光地で異変が起きた時、どうやって観光客の安全を担保するのか、鉄道、バス事業者と地域とが一緒になって、いざという時の対応を考えましょう、と自治体にも働きかけている。
 ソフト面では「情報」が如何にホットに提供できるかにあり、昨年からWi-Fiの接続も可能とし、観光協会のネットとの間でリンクを実施した。
 設備が整っても会社の経営が成り立たなければ電車は止まってしまい、そのバランスをどうやってとっていくかが経営者にとっては難題。
 お客様に乗っていただく、リピーターを醸成していくことが目先の目標でもあり、それが今後鉄道が残っていくポイントになるであろう。

樺澤 豊 -まずは関心を持ってもらう-
 親の立場としては、「金もないし、自転車で通え」と言う。雨が降ったら我々の時代は傘をさしたが、今の高校生は傘をささず雨の中を平気で動く、そのようなことも理由にあるのか。
 二次交通の面は、私どもが二次交通なのか、私どもの先が二次交通なのか、本数も少なくうまく繋がっていない。行政との連携、地域との連携が必要。
 使いやすくするための施設の面において、ハード面ではなかなか対応ができていないのが現状。そこを埋めるのはソフトで、アナログの絆によっている。
 地域をいかに取り込むか、地産地消等の地域を含めた情報発信を如何にできるか、そうすることにより、わたらせ渓谷鐡道があってよかったと思っていただけるようにし、惹いてはこのことが鉄道を使いやすくすることになるのではないかと考えている。

Session 3 C「持続可能で安心・安全な鉄道であるために」

田中 人
「持続可能」という言葉は深く広い言葉。持続可能で安心・安全な鉄道は、これからの日本の課題、地方創生を支えるためにも一番根本となる部分になると思う。少子高齢化、人口減少等厳しい環境の中で今後の地域鉄道や公共交通が持続可能であるためにはどうしたら良いのかについて、議論を深めたい。

樺澤 豊 -五感で感じる-
「持続可能」であるためには、沿線の方たちにまずご理解をいただくことが必要。地域との連携にあり、それぞれの役割を踏まえた連携が必要となる。
 鉄道から降りた先にどのような魅力的な場所があるのかどうかも、必要。
 交通弱者の方のためにも鉄道を残して存続させなくてはならない、そのためには観光も大切で、地域も活性化することが必要。
 安全・安心については、社員があたりまえのことをあたりまえにできて、危険への気づきをどう誘発していくかにかかっている。社員には、声を出して挨拶をすることを徹底しており、それを安全につなげていく。
 運転士は、五感で感じる。目で、耳で、匂いで、おかしいなと思ったら他のセクションに伝える。そのようなことがいつでもできるよう、何度も訓練等を通して教育を実施している。
 わたらせ渓谷鐡道への良い評価は、社員のやる気を高める効果にもなる。

深谷研二 -公共の安全を確保-
 人が変っても安全・安心についての方針は絶対変わってはならない。
 40年以上鉄道の安全に関わる仕事に携わった経験から、「いつ、どこで、何が起きるのかわからない、今日何もなかったから明日も大丈夫という保証はどこにも無い」、ということ。
 ヒヤリ・ハットで済んで良かった、で終わるのでなく、もしこれが最悪の事態になったら、どのような影響が出るのかというところまで、自分自身と組織をあげて突っ込んだ結論を出すことが必要であり、ちょっとしたことでも皆でその情報を共有して、事故を未然に防止して行こうというのが、私の信念。
 「公共の安全」とは、まず「列車運行の安全」、それを支える「社員の安全」、もう一つ大事なのが「地域の安全」で、それぞれが三位一体となってバランス良く対応していかないと「公共の安全」は保たれない。
 大地震編、感染症編、風水害編からなるBCP(Business continuity planning)の態勢をつくっている。
 地域への貢献、地域との連携がなくしては、地域鉄道は成り立たない。高齢者、お子さんが安心して乗れるということを構築していく。
 観光路線として、社員が感動せずして、お客様が感動するはずがない。

猪狩浩伸 -災害や安全確保のための支援を用意-
 大規模災害については、災害復旧費補助で支援を行うと共に、安全・安心のための施設の更新やメンテナンスを地域公共交通確保維持改善事業費補助で支援を行なっている。
 通常は国が1/3補助、鉄道事業再構築事業等をやっている鉄道で、特に自治体の財政が厳しい地域においては、補助率を1/2に拡大するなど工夫して支援を行なっている。
 自治体の負担も大変なので、自治体が補助する部分については総務省で30%の交付税措置が講じられている。さらには、過疎対策事業債には70%の交付税措置を講じている。
ソフトの部分では、運輸安全マネジメント制度を導入し、設備の状態は保安監査を行なっている。
 人材の確保も大変重要なテーマ、共同訓練のような取り組みも全国的にも広めていく必要がある。

小島好己 -すべての交通機関の情報を-
 安心して使い続けることができる、という前提で考えると、利用者としては、使う時にあまりむずかしいことを多く考えずに使えたら良い。
 鉄道を含めたすべての交通機関の情報、ここから、ここまで移動するにはこのようにして行けるというのがわかるものを構築することが、利用しやすさにつながるのではないか。
 高齢者の方々にとっても情報を得やすくしないと、なかなか高齢者の取り込みは難しい。
 
まとめ
田中 人 -「持続可能性」の言葉の理念に立ち返って-

「持続可能性」という今回のキーワード。この持続可能性という言葉が安直にどこでも使われている。
 92年の地球サミットの時、どのような意味で使われたかと言うと、「将来世代のニーズを損なうことなく、現代の世代のニーズを満たす」という世代間倫理という観点がこの言葉にあった。
 しかし、今持続可能性と言う時に、「生き残れ、生き残れ」と言っている感じで使われ、サバイバビリティーを鍛えろという形になってしまっている。
 公共性と言うのは、個人の次元を超えて考える、公的な利益を考えるということで、世代もそうで、持続可能な鉄道、持続可能な公共交通と言う時は、自分たちの世代はもちろん、後の世代まできちんと残していかなくてはならないという発想。
 改めて「持続可能性」サステナビリティ(sustainability)という言葉の理念の基礎に立ち返って取り扱った方が良い。
 それが無いと、自分を越えてものを考えない、自分の世代を超えてものを考えない、「無関心」を招き、それがコミュニティの中で広がると「孤立死」、「無縁死」という問題につながっていく。
 特にに地域鉄道を考える際には「持続可能性」という言葉をもう一回大事にした方が良いのではないか。


講演録の詳細版はこちらから 講演録へ 詳細講演録(pdf,1673KB)

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