講演録

1.来賓挨拶 国土交通省鉄道局 鉄道事業課長 田口芳郎氏

 本日は地域鉄道フォーラムが3年ぶりのリアルの形での開催できることとなり、誠におめでとうございます。
 新型コロナの影響が残る中での開催にあたっては、主催者の一般社団法人交通環境整備ネットワークの皆様のご苦労があったことと、敬意を表します。
 会場にお越しの皆様におきましては、日頃より鉄道行政の推進に対しまして、多大なるご理解、ご協力を賜っていることに改めて御礼を申し上げます。
 さて、この鉄道事業課長という肩書、全国の鉄道ファンには羨ましがられるような肩書を頂戴している訳でありますが、実は私自身も、本日のチラシのプロフィールでは、「乗り物、とりわけ鉄道に造詣が深い」と書いて頂いていますが、詰まるところ、大の鉄道ファンであります。当時の運輸省に入省して、最初に配属されたのは今の鉄道局でもありました。
 しかし、「趣味と仕事を混同してはならない」ということで、「国土交通省は鉄道ファンを採用しない」、「鉄道ファンは鉄道局に異動できない」といった人事方針があるとの伝説があり、実は私もこの事実をこれまでひた隠しにし、いわゆる「ムッツリ」を装っておりました。 そうではありましたが、入省して30年近くになりますし、この鉄道事業課長のポジションに就いた以上、もう怖いものはない、ということで最近は積極的にカミングアウトしているところであります(笑)。
 そのようなことから、まさに「愛と情熱」を100%傾けて、鉄道行政に当たっているところでありますが、当然ながら仕事は趣味と異なり、大変厳しい現実に直面しなければなりません。
 まさに、この新型コロナは全国の鉄道事業に大変な試練を与えております。中でも人口減少やマイカー転移等により、元来厳しい状況に置かれていたローカル鉄道は、更なる利用客の減少により、10年先の課題が一気に今、やってきたような状況であります。 そうした中でも、何とか地域の足を守っていかなければならない、ということで有識者検討会(鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会)を立ち上げ、この夏にも何らかの提言をまとめたいと思っております。
 また、鉄道の現場にもせっせと足を運び、路線の様子を肌で感じて首長さんたちとも膝詰めで協議を重ねてきております。本日も、今朝方に北海道を経って、先ほど、こちらに駆けつけたばかりです。
 私は、子供のころから、「乗り鉄」であり、「読み鉄」でありました。やはり、我が国のローカル鉄道の魅力は格別であり、夏休みなどの長い休みのある度に青春18きっぷで遠くに出かけました。
 また、出かけられない時には、愛読の『鉄道ジャーナル』を毎月買って、種村直樹先生がお書きになった旅行記などを読み、まだ見ぬ鉄道路線への空想を膨らませ、次なる旅行の計画を立てていたものでした。

鉄道は特別である3つの理由

 私のそのような経験から、「鉄道は特別である」理由が3つあるのでは、と考えています。
 ひとつは、鉄道そのものが極めて「奥の深い乗り物」であることです。知るたび、乗るたびに新たな発見があります。そもそも鉄道好きのジャンルは、"乗る"、"読む"にとどまらず、"撮る"、"模型"、"時刻表"、"音"など、極めて多岐にわたっていることもその証左です。
 2つ目は、鉄道が「地域の鏡」であること。鉄道には、その地域の発展の歴史が凝縮されています。また、その存在が、地域の風景の一部となっています。鉄道に乗った時の空気感、それはその土地の空気感にほかなりません。
 3つ目は、鉄道が「自分の鏡」であること。鉄道は、人々の日々のライフステージとなっています。毎日通学で使っていた、甘酸っぱい記憶も含めて、その頃の記憶や、旅行で乗った時の景色、匂い、音などが人々の記憶に凝縮されています。また、鉄道はどことなく不器用さがあって、それは自分とも重ねて感じるところがあります。
 こうした得も言われぬ鉄道の魅力を、ストーリー化し、言葉に乗せて、私のような「読み鉄」だけではなく、一般の多くの人に伝えていく、これが本日のテーマである「鉄道を書く」ということにあろうかと思います。

鉄道の魅力に共感してもらう

 今日、存続の危機に立たされている多くのローカル鉄道ですが、「愛と情熱」だけではなかなか救うことができません。ビジネスとして成立するためには、日常使い、旅行含めて、「如何に多くの方に乗っていただけるか」、そして「如何に地域にとってなくてはならない存在になれるか」、というのがキーとなります。
 そのためには、多くの人が「鉄道の魅力に共感してもらう」ことが重要であり、その意味でも、「鉄道を書く」ことの重要性がかつてないほど高まっていると考えています。
 私には、残念ながら文才が無く、もっぱら読む方だけですので、本日は大変魅力的な書き手の方々のお話を出席者の皆様と一緒に伺えるのをとても楽しみにしております。
 以上、簡単ではありますが、私の挨拶とさせていただきます。有難うございました。(拍手)

プロフィール(敬称略)
田口芳郎 Taguchi Yoshiro
国土交通省鉄道局鉄道事業課長
1995年運輸省(現国土交通省)入省(鉄道局)。米国留学(ハーバード大学行政大学院)、海上保安庁、総合政策局、鹿児島県企画部交通政策課長、航空局、大臣官房、在米国日本国大使館参事官、内閣総理大臣官邸国際広報室内閣参事官、観光庁参事官(外客受入)、国土交通大臣秘書官等を経て2021年より現職。
乗り物、とりわけ鉄道に造詣が深いことで知られる。2017年8月より鉄道局鉄道事業課長。

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