地域鉄道の高付加価値フォーラムin五所川原「どっすー?地域鉄道」の開催

一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催
         地域鉄道の高付加価値フォーラムin五所川原「どっすー?地域鉄道」

 一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催の「地域鉄道の高付加価値フォーラムin 五所川原 ~どっすー?地域鉄道~」を2023年(令和5年)12月16日(土)青森県五所川原市民学習情報センターで開催しました。
 一般社団法人交通環境整備ネットワーク代表理事の原潔より開会のあいさつの後、国土交通省大臣官房参事官の田口芳郎氏から「地域交通法改正のポイント~地域の鉄道はどうあるべきか~」と題して基調講演を頂戴し、続いて、東京女子大学現代教養学部教授の矢ケ崎紀子氏がコーディネーターとなって、田口芳郎氏と津軽鉄道株式会社顧問の澁谷房子氏、ビデオメッセージで参加をいただいた温泉ビューティ研究家・旅行作家の石井宏子氏によるトークセッションが展開されました。会場からの質疑応答の後、津軽鉄道株式会社代表取締役社長の澤田長二郎氏の閉会のあいさつを頂き、フォーラムは終了しました。
 2023年10月の改正地域交通法(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律)の施行を踏まえ、地域鉄道の役割や存在意義をひもとき、地域と地域鉄道との関係や、その付加価値を高めるための方策についてご議論をいただき、地域と地域鉄道を考える際の多くの手がかりが示された貴重なフォーラムとなりました。

期 日:2023年(令和5年)12月16日(土)13:30~15:45 (13時開場)
会 場:五所川原市民学習情報センター JR・津鉄五所川原駅徒歩10分
    五所川原市字一ツ谷503番地5
参加費:無料 
参加者数:93名
〇多くの皆様にご参加いただき、ありがとうございました。
会場でお求めいただきました書籍『地域の発展と鉄道』は、総額31,000円となり、全額津軽鉄道様にご寄付をさせていただきました。 ご協力をいただき、ありがとうございました。重ねて御礼を申し上げます。

プログラム      
開会のあいさつ 一般社団法人交通環境整備ネットワーク 代表理事 原 潔
基調講演「 地域交通法改正のポイント、地域の鉄道はどうあるべきか」
                 国土交通省大臣官房参事官 田口芳郎氏
トークセッション「 地域鉄道の付加価値を高めるには」
   コーディネーター/東京女子大学現代教養学部教授 矢ケ崎紀子氏
    パネラー/     国土交通省大臣官房参事官 田口芳郎氏
           温泉ビューティ研究家・旅行作家 石井宏子氏
                津軽鉄道株式会社顧問 澁谷房子氏
閉会のあいさつ  津軽鉄道株式会社代表取締役社長 澤田長二郎氏

動画配信 以下で動画をご視聴ください

開会のあいさつ 一般社団法人交通環境整備ネットワーク 代表理事 原 潔



基調講演 国土交通省大臣官房参事官 田口芳郎 氏
「地域交通法改正のポイント~地域の鉄道はどうあるべきか~」



トークセッション「地域鉄道の付加価値を高めるには」



閉会のあいさつ 津軽鉄道株式会社代表取締役社長 澤田長二郎 氏



講演録

講演録の詳細版はこちらから 講演録へ 詳細講演録(pdf,5237KB)pdf

以下は、講演録の概要です

開会のあいさつ 一般社団法人交通環境整備ネットワーク代表理事 原 潔

 2023年は地域交通にとって、大変大きなエポックがある年となりました。それは地域交通法の改正です。この法律改正の礎をつくられ、改正に至るまで大変ご尽力をいただきました田口芳郎様に基調講演をお願いすることができました。皆様と共に、より良い地域の交通を考えていく機会になればと願っております。

基調講演「地域交通法改正のポイント ~地域の鉄道はどうあるべきか~」
                          国土交通省大臣官房参事官 田口芳郎氏

 鉄道事業は、新橋-横浜に鉄道が開通してから150年以上の歴史があり、国が整備し運営していた時期が長く続きましたが、国鉄からJRに変わり、今日、鉄道事業法のもとで「民間ビジネス」として運営されるのが建前となっています。
 しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により鉄道各社は経営悪化を招きました。特に地域鉄道はコロナ禍を経て更に赤字が増加しており、もはや「民間ビジネス」として成立するのは幻想と言わざるを得なくなっています。
 JRの輸送密度2,000人未満の線区が占める割合もJR発足時の16%から現在では39%までに拡大されている状況で、線区によっては9割も減っており、このことは単に人口減少では説明がつかない程、鉄道離れが起きています。
 鉄道だけでなく、バスもタクシーもこの「民間ビジネス」を前提としてきましたが、地方においては多くの鉄道やバス路線が赤字を抱えている状況に鑑み、2007年に「地域交通法」が制定されました。これにより、地域において鉄道、バスの横断的なグランドデザインを描き、まちづくりとセットで地域の交通のあり方を考えていくことに転換が図られたのです。国もそのための措置や助成を行っていくこととなりました。
 更に今回の地域交通法の改正により、関係者の対話が進むように、必要な場合には国が積極的に協議の場を設けることとしました。加えて、「鉄道もバスも社会資本である」との考えのもと、地域公共交通再構築事業を社会資本整備総合交付金の対象としました。これにより、民間の鉄道、バス会社のすべて、中小、大手、JRにかかわらず対象となり、自治体が社会資本として整備する必要があると判断した場合に、そのかかった経費の2分の1をこの交付金により支出できることとなりました。
 地方の鉄道は、外部経済効果を自身の中に取り込むことができずに外部に流出している現状で、そのこともしっかりと認識し、検証すべきです。その上で必要となれば、そこにしっかりお金を入れて残す。民間ビジネスに対する「支援」という発想から、地域の必要な「社会インフラとして守っていく」という意識に変わるべき岐路に立っており、そこをうまくやれた地域は安定的に発展していくものと考えています。
 まずは「地域としてどのような意義があり、どのような形で交通手段として守っていけるのか」、これを議論するのが第一歩であり、そこを国としてもいろいろな形でサポートさせていただきたいと思っています。

トークセッション 「地域と地域鉄道」

 東京女子大学現代教養学部教授の矢ケ崎紀子氏がコーディネーターとなって、「コメントと自己紹介」、「地域鉄道の価値を高める可能性」、「地域鉄道に、地域は、国は何をなすべきか」の3つのセッションでトークが繰り広げられました。

地域鉄道は地域の重荷?

◯東京女子大学現代教養学部教授 矢ケ崎紀子氏
 「地域鉄道は地域の重荷?」-地域鉄道については、採算、不採算という経営状況を単に見ているだけの論調が多いと感じています。民間企業であれば、グループ経営の発想があります。地域においてもグループ経営のような発想が必要なのではないでしょうか。
 ドイツの国際会議場においては、会議場単体で採算を取る必要はなく、国際会議による集客により地域全体にお金が流れ、地域全体で採算が取れれば良いとのことです。メリットを近視眼的にとらえるのではなく、範囲を広げた形で考える必要があり、全体ではどのような採算になってるのかを説明できるようにすることが大事なことと思います。
 鉄道自身も付加価値を高めて高単価とすることも必要です。地域が、ゆったりと上手にその地域の良さを失わない形で受け入れられるよう適正な規模であることも必要であり、そのためには単価の高い料金を設定することも必要であって、地方への誘客のためにも大事なコンテンツを更に大事に磨いてその付加価値を高めていくことが大切です。
 地域を維持し盛り立てていくために、地域鉄道が果たせる役割はたくさんあり、地域の人々がアイデアを持ち寄ると面白いことができるのではないでしょうか。鉄道は一旦無くなってしまえば取り返すことはできません。今の段階で、皆で考えていきたいと思います。

【 Session 1】 コメントと自己紹介

◯津軽鉄道株式会社顧問 澁谷房子氏
 この会場には津軽鉄道愛が深い人たちが結集し、優しく温かい雰囲気を作ってくれており、ありがとうございます。
 津軽鉄道は昭和5年に開業して、今年(2023年)で93年を迎えました。その半分ぐらいの期間を私は関わってきました。輸送人員は、昭和49年度257万人でしたが令和4年度は26万人に減っています。
 矢ケ崎先生は、国際会議場を例えにしてくださいましたが、津軽鉄道も同じように地域にメリットをもたらしているのではないかと思いました。田口さんの基調講演で、「地域としてどのような形で交通手段として守っていけるのか、これを議論するのが第一歩」とお聞きし、とても心強く感じました。

◯田口芳郎氏
 地域全体の中で誰がどういうメリットを受けており、その代わりとしての負担というものはどのようにあるのかを整理していくプロセスが大事になると思います。
 矢ケ崎さんのお話の高単価の高付加価値サービスの提供もそのとおりとだと思います。
 地域交通法の改正で、路線別あるいは地域別に運賃を設定しても良いとして、「地域協議運賃」という仕組みも取り入れています。運賃・料金はもっと柔軟に設定されて良いと考えていますが、例えその運賃収入でカバーできない状況にあっても地域全体に外部経済効果が及んでいる場合は、それを還流できる仕組みづくりが必要と考えます。

◯矢ケ崎紀子氏
 良いものは高いのが当たり前で、皆さま方が普段見慣れてる風景でも旅行者からしたら大変な価値のあるものなのです。第三者の目も借りながら、価値あるものを見つけていかれると良いのではないでしょうか。

【 Session 2】 地域鉄道の価値を高める可能性

◯澁谷房子氏
 津軽鉄道は、「動く博物館、大人の遊園地」と言われたことがあります。全国的に知名度が高いことについては自負しています。津軽鉄道に来ていただくお客様によっても価値が作り出されると思うのですが、沿線のいろいろな支援団体や、沿線からは離れた県内外の方々の支援があってこそ、価値が作られ、「交流人口」とか、「関係人口」も増えると思っています。

◯田口芳郎氏
 今の澁谷さんのお話は、「連携」ということであり、いろいろな方とパートナーシップを組み、一緒に儲けを出すやり方もあると思います。「あの鉄道に乗ろう」という動機付けがとても大事で、「この鉄道に乗らないとできない食事」とか、「この鉄道に乗らないとできない体験」、「この鉄道に乗らないと見えない景色」等、その魅力をいかに訴求できるか、そのために地元のいろいろな企業の方の総力を結集していくということも必要であり、大事なことと思います。

◯矢ケ崎紀子氏
 澁谷さんからは「人間関係性」の中から、田口様からは「パートナーシップ」の中から生まれてくるものがあるという大変重要なキーワードをいただきました。
 鉄道に乗るとおいしいお食事がいただけるということについて、そのご経験を語っていただけるのではないかと思い、会場にご参加いただいいている鳥塚さん、お話をよろしくお願いします。

◯えちごトキめき鉄道株式会社代表取締役社長 鳥塚 亮氏
 前職のいすみ鉄道社長の時にレストラン列車を始めました。田舎の地域はリソースが非常に少なく、そうであれば付加価値の高い商品を提供すれば良いと思い始めました。今は、えちごトキめき鉄道で「雪月花」というガラス張りの観光列車で食事を提供しています。民鉄、地域鉄道は通常古い車両を改造して観光列車に仕立てるのですが、この雪月花は開業の時に造られた新車です。新車での観光列車は、「七つ星」、「四季島」、「瑞風」等がありますが、それに乗るといくらでしょう?その話をして「雪月花は、2万5,000円です」と言うと皆さん「安い!」」と言っていただけます。いかにお金を落としていただくかを考え、落としたお金は必ず地域に還流するので、そのような仕組みづくりをすることで地域に鉄道がお役に立てるのではないかと思います。
 津軽鉄道のストーブ列車も良い鉄道食文化のひとつだと思います。ストーブでスルメを焼いて、地元のお酒を飲み、スルメは年間5,000枚ぐらい売れていて、これも地域にお金が還流してる証拠です。

◯矢ケ崎紀子氏
 大変ありがとうございました。
 石井さんは、体調を崩されてご欠席ですが、その中でビデオメッセージを頂戴しています。

◯温泉ビューティ研究家・旅行作家 石井宏子氏(ビデオメッセージ)
 今日は会場に伺うことができず申し訳ございません。観光という側面から地域鉄道の価値を考えるお話をしたいと思います。津軽鉄道のストーブ列車やタブレットの交換、硬券キップ、お弁当、芦野公園の喫茶店は、それ自体が旅の目的にもなり、癒やしの時間となります。真っ赤な「雪月花」は素敵な観光列車ですし、星野リゾートとのコラボ列車の「ゆずきち号」や「福がくるくるフルーティア」には、地域の工芸品であったり、地域の農産品であったり、それらをプレゼンテーションするコラボの舞台になっています。
 たとえ通常のダイヤであっても鉄道には楽しめることが一杯あり、活躍できる舞台が沢山広がっていると思っています。皆様で地域鉄道の色々な可能性を考えていただけたらと思います。

【 Session 3】 地域鉄道に、地域は、国は何をなすべきかか

◯田口芳郎氏  矢ケ崎さんのお話にもあったように、決して赤字だからといって地域の重荷ではない。たまたま企業会計原則を当てはめれば赤字というだけであって、それが地域に及ぼしてる外部経済効果も含めれば黒字なのかもしれない。この地域経済効果を検証する調査費用を応援する仕組みを予算の中で設けさせていただいてます。
 今苦境に立たされてる多くの鉄道会社があると思いますけれども、今一度、その役割を正面から、皆で議論して、見て見ぬ振りをしないで欲しい。意味のある鉄道はしっかりと将来世代に残していくことを進めていければ良いと思います。

◯澁谷房子氏
 津軽鉄道としては、まず安全運行が第一、それから安定経営ができることが最重要であるということは分かっています。色々と努力はしてるのですが、安全運行維持のためには高額な維持費がかかります。それらの費用は莫大で、運賃収入でその高額な負担を負うのは大変です。沿線の人口はますます減少し、疲弊していくこの地域のあり方と、それに合わせて津軽鉄道がこの地域にどのような役割を果たせるのかを真剣に考える重要な時期が今ではないかと思いました。自治体の方々、是非先頭に立ってこの地域のあり方とか地域鉄道、津軽鉄道のあり方を一緒に考えていただけないでしょうか。

◯矢ケ崎紀子氏
 田口さんの基調講演資料の中に「鉄道は地域の宝です」との記載があり、その「地域の宝」というその力を顕在化させるためには、地域がまとまってパートナーシップを組み、「今こそ考えていきましょう」というメッセージを心の中に一番重たいものとして受け取って、そしてみんなで進んでいけたら良いのではないでしょうか。

閉会のあいさつ 津軽鉄道株式会社代表取締役 澤田長二郎氏

 県内外の大勢の方々にお集まりいただき、感謝いたしております。有り難いことだと思う一方、同時にそれだけご支援いただき、この私もまたまだ頑張らなければいけないと思いました。
 本日のお話をひとつの契機とし、「地域としてどうするのか」を是非皆さんで積極的にご討議いただき、ご提案を頂戴できればと思います。

講演録の詳細版はこちらから 講演録へ 詳細講演録(pdf,4791KB)pdf

パンフレット

このパンフレットはこちらから(pdfファイル484KB)

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