鉄道あれこれ

プロフィール

鉄道コラムニスト
交通新聞記者を経て、社団法人日本民営鉄道協会常務理事として長く民鉄の広報活動に携わる。
独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の機関誌や交通公論等の運輸専門誌に記事を連載。
一般社団法人交通環境整備ネットワーク審議役

目次

  1. 2021/04/07 トップの船長型経営と決断
  2. 2022/03/01 ローカル線の旅の醍醐味
  3. 2022/03/12 路面電車は文化度のバロメーター
  4. 2022/03/22 東武東上線に"なりもす駅"がオープン
  5. 2022/03/26 鉄道好きのための法律入門
  6. 2022/03/31 待ちわびたバス開通の春だより
  7. 2022/04/07 全国鉄道駅の半分は無人駅
  8. 2022/04/08 西国分寺駅ホーム上にクリニック誕生
  9. 2022/04/09 地域の交通の姿
  10. 2022/04/13 鉄道開業150周年
  11. 2022/04/14 自治体の力量
  12. 2022/04/16 『地域交通を考える』は情報の宝庫
  13. 2022/04/20 普段着姿の鉄道に市民パワー
  14. 2022/04/25 茶摘みと静岡鉄道
  15. 2022/04/27 地道な点検と長寿命化を
  16. 2022/04/29 街歩きへの誘導
  17. 2022/05/04 上信電鉄のシーラカンス
  18. 2022/05/05 平穏の日々のありがたさ
  19. 2022/05/09 甲州犬目峠
  20. 2022/05/10 地方鉄道の行く先は
  21. 2022/05/11 四鉄道合同ハイキング
  22. 2022/05/13 ヒマラヤの青いケシを求めて
  23. 2022/05/17 別所線ラン&ウォーク
  24. 2022/05/19 鉄道で行く世界をめぐって人を知る旅
  25. 2022/05/22 パリ・リヨン駅の駅弁
  26. 2022/05/26 因美線全通90周年
  27. 2022/05/28 押し鉄の後押し
  28. 2022/05/30 旅は道連れ、世は情け
  29. 2022/05/31 種村直樹汽車旅文庫
  30. 2022/06/01 Dohna!!(ドーナ)はナンダ
  31. 2022/06/05 歩いて暮らせるまちづくり
  32. 2022/06/09 私鉄経営に学ぶ
  33. 2022/06/13 鉄道とバスの共同経営
  34. 2022/06/28 梅雨最短
  35. 2022/06/30 鉄道の礎を築く佐藤政養
  36. 2022/07/01 駅名でたどる県のなりたち
  37. 2022/07/04 旨味車内旅情
  38. 2022/07/08 市民が集う新しい駅
  39. 2022/08/01 過疎対策に転換
  40. 2022/08/21 夢の中でも走りたい
  41. 2022/10/09 祝 JR只見線全線運転再開
  42. 2022/11/17 干し柿のれんに託す沿線住民の願い
  43. 2022/11/27 鉄道と美術の150年
  44. 2022/11/29 落とし物のオンライン管理
  45. 2022/12/01 鉄道と耐用年数
  46. 2022/12/03 温もり列車
  47. 2022/12/06 わたしたちが創る展
  48. 2022/12/09 大学の秘蔵コレクション
  49. 2022/12/15 書店の減少に心痛める
  50. 2022/12/19 鉄道技術の継承

●バックナンバーNo.1~No.100は、こちらから

 2021/04/07 トップの船長型経営と決断

 観光関連産業は、新型コロナウイルス感染症が収束しないことにより深刻な状況に陥っている。大手私鉄グループのホテル廃業のニュースもその一端。そうした時、会社再建に苦心した約30年前のアサヒビール、樋口廣太郎会長のひと言を思い出した。「強いリーダーシップをとるには運転手型経営者から船長型経営者になること」。

 「進むべき方向が分かっている時の経営者は、レールの上をきちんと走る電車や自動車のようにブレーキやアクセルなどを操作する運転手型で済む。そうでない環境の時は海図なき航海に立たされたのも同然で、船長格には先見性、戦略性が求められる。しかし、思い上がりは駄目。年齢、ポジションに関係なく、社員のアイデアや意見を聞き出す姿勢が大事」と言っていた。さらに、当時のJR信越本線軽井沢駅長との会話が"トップ"としての決断の大事さを一層悟らせたと繋いだ。

 樋口会長が乗車した横川~軽井沢間は碓氷峠にかかる急勾配区間で、『安全を守るためクッションのエアを抜きます。ご辛抱を』と車内放送があった。降車後、その理由を軽井沢駅長に聞くと、「安全第一が私たちの使命。車体不安定で事故になることは許されない。空気バネのエアを抜くのはそのための手段であり、不快感をお与えするのをお許しください」と答えてくれた。辛い決断であったと思うが、こうした決断こそが企業を安全方向へリードする経営者の責務と再認識したという。つまり、安全を確保できるのならば、たとえ前例がなく、利用者には不利益な部分が生じることとなっても果敢に決断し実行できることも企業トップには求められている。

 2022/03/01 ローカル線の旅の醍醐味

 知人から「身近なローカル線を旅してなにか話題を見つけたら」という提案があった。そこで、JR東日本管内の東京西部を走る青梅(おうめ)線の旅を思い立った。同線は、立川~奥多摩間37.2km。単線だが、時刻表にも愛称・東京アドベンチャーラインと紹介されている。東京の水源・多摩川左岸に沿って走り、昭島(あきしま)、福生(ふっさ)などの市域には歴史・文化・民俗にまつわる話題が多い。しかし、少子高齢化や人口過疎化から全線25駅のうち、青梅~奥多摩間11駅は無人駅。話題を探して片道約1時間30分の"旅"をした。

 見つけた話題の一つは、JR東日本と地域活性化コンサルタント・(株)さとゆめ(嶋田俊平社長)の連携。実験的に無人駅の白丸駅などをホテルのフロントに仕立てて、沿線のホテルや空き家宿泊を案内したところ手応十分の結果を得た。今後、チェックを重ねて本番に入るというが、原風景を守りながらの地域起こしの一策として楽しみだ。JR東日本もパンフレット<青梅線・五日市線の旅>を駅頭に置くなどのPRを行っている。

 二つ目は、奥多摩駅で確認できた地元のトイレ清掃担当者の心意気。奥多摩総合開発(奥多摩町氷川、清水勉社長)は事業の一環としてトイレ清掃作業を受注している。愛称は「オクタマ・ピカピカ・トイレ」を略した"オピト"。奥多摩駅前、鳩ノ巣駅など観光客の利用が多いトイレもピカピカで評判が高い。奥多摩町観光産業課の杉村翔さんは「清潔なトイレには空き缶や瓶もなくなったのがその証」と話す。

 ローカルの旅でホットな話題に触れることができるのも、確かに旅の醍醐味となるものだ。

 2022/03/12 路面電車は文化度のバロメーター

 2022年2月末に「国土交通省は路面電車を対象とする軌道法の関連通達を改正する方針」というニュースに接した。実施されれば運賃値上げは自治体など地元関係者の合意次第ということになるという。現行の総括原価方式では、少なくとも3年先までの需要見通しなどのデータを用意しないと、国の認可を得られない。そうした中なので驚いた。理由はコロナ禍で路面電車の利用者が激減、そこまで踏み込まないと地域交通網を維持できないという。

 路面電車のワンマン化に先鞭をつけたのは、昭和39年(1964年)ごろの大阪市交通局だったと記憶する。その背景は同局が、これまた全国に先駆けてバスのワンマン化を実施したことが背景にあった。良いと思うことはすぐ実行というのが大阪人気質の長所。58年前のその頃の東京オリンピックの賑わいと重なって、その素早さに驚いたものだ。
 はじめはワンマン化できそうな線区でテストを重ねた。路面電車の車掌を減らして地下鉄に配転すれば人件費の節約になるとも考えたようだ。道路交通マヒで路面電車の利用者は激減、累積赤字額も増える一方と報じられていた。「生きていくため、暮らしていくため」と"浪速っ子"は、素早く反応した。

 しかし、道路交通の邪魔者扱いされた路面電車は、数多くの都市から消えていった。そうした逆風の中でも地元住民から愛され大事にされて、今でも路面電車が残っているのは21都市206キロ。こればその地域の住民の意識の高さ、持つ文化がなせる技であり、路面電車のありなしは、地域の文化度の高さを示すバロメーターと言えよう。

 今回の国の思い切った策は、コロナ禍での社会経済混乱の深刻さを象徴しており、その成り行きに注視したい。並行して地域においてもどのような支援ができるのかの検討を深め、知恵を絞ると共に、鉄道やバス、タクシーなどモード間の連帯も一層強めてほしいと願う。

 2022/03/22 東武東上線に"なりもす駅"がオープン

 駅周辺商店街と鉄道会社の連携は重大関心事。最近、東武東上線成増(なります)駅が2022年3月8日~4月3日の期間限定で、同駅構内の駅名表示と南口の駅名表示が成増駅の「なり」とモスバーガーの「もす」を組み合わせた"なりもす駅"になっている。加えて特別電車"モス号"も運転している。これに呼応して近くの商店街も60本の旗を立ててイベントを盛り上げる熱の入れようだ。

 モスバーガー社は1972年3月12日に第一号店を成増駅前でオープン。以来、全国に約1200店を構え、今年で創立50周年を迎えた。その機会をとらえ、東武鉄道の協力を得て、今回の地域を交えた様々なコラボが行われることとなった。この戦略に、駅周辺地域の人々はもちろんのこと鉄道利用者も驚きとともに評判を呼んでいる。
 "なりもす駅"を超えるような駅周辺商店街との画期的なコラボの実現を多くの鉄道においても期待したいところだ。

 2022/03/26 鉄道好きのための法律入門

 春休みの鉄道好きの学生からの電話は、「何か面白い鉄道ネタはありませんか?」。早速、新刊本『鉄道好きのための法律入門』(小島好己著、発刊・天夢人、発売・山と渓谷社、税込み1,650円)を紹介、表紙文を拝借して「鉄道を気持ちよく乗ったり、楽しむためにはルール厳守」と付け加えた。「難しそうだな」との返答に、「小難しい法律は末尾に参照法令等として案内しているだけ。よもやま話のスタイルで書かれていて楽しいぞ」と重ねて勧めておいた。

 筆者の小島好己氏は弁護士(翠光法律事務所)で、一社・交通環境整備ネットワークの監事でもある。法曹界のレール趣味仲間からは"専務車掌"と呼ばれているほどの鉄道好き。短文にまとめた68項目155ページは「乗車ルール・マナー編」、「鉄道趣味編」、「鉄道マメ知識編」の3部門に章立てされ、普段何気なく鉄道を利用しての身近な疑問や、「鉄道の撮影に許可は必要?」、「線路立ち入りの罰則は10円ってホント?」等、近時しばしばマスコミでの話題となる疑問にも、時にはクスリと笑える内容で書き上げている。まずは論より証拠、ご一読をお勧めしたい。
 なお、当の学生からは日をおかず読後のお礼電話を受けたことは言うまでもない。

 2022/03/31 待ちわびたバス開通の春だより

 長かった寒波もようやく収まり、大雪で悩まされ続けた遠く山地から、待ちわびたバス開通の"春だより"が届いた。

 青森県の八甲田・十和田・酸ヶ湯一帯をエリアにするJRバス東北(青森市)は、4月11日からJR青森、新青森両駅と十和田湖(休屋)を結ぶバスの運行を開始する。「3月29日に開通式を済ませたばかり、安全運行に努めます」と話す。

 富山、長野両県を跨ぐ立山黒部アルペンルートは、美女平~室堂間約23kmの積雪量が昨年より多く、室堂付近は高さ約8mの所を残している。「それでも4月15日の開通を目指す」とPRを始めたのは、バスを運行する立山黒部貫光(富山市)。同ルートへの連絡に欠かせない富山地方鉄道も「立山線岩峅寺(いわくらじ)~立山間での車窓からの山容もお見逃し無く」とそつがない。

 2022/04/07 全国鉄道駅の半分は無人駅

 2022年4月3日付け朝日新聞朝刊で、小学校6年生阿部圭太さんの墨痕鮮やかな"尾盛"(おもり)の二文字に思わず声をあげてしまった。"尾盛"は、静岡県内大井川沿いを走る大井川鐵道の終点・井川駅から二つ手前の無人駅で、以前訪ねたことがある。書に添えられた思い出の記に「自分は将来、秘境駅訪問家になって、そうした『日本の宝』を大事していく。だから廃止しないで」旨の目標が示されていた。この夢の成就を願うばかりだ。

 国土交通省調べでは2020年3月現在における全国鉄道駅数は9,465駅。うち無人駅は約半分の48.2%、4,564駅となっている。少し前の2002年には9,514駅中無人駅は43.3%の4,120駅であった。無人駅の増加は気になる。

 2022年4月に総務省が過疎地域に指定した自治体が、全国1,718市町村のうち885市町村と半数を超えたと報じられている。無人駅の増加は、この過疎地域の増加とも関連があるかもしれない。
 他方、大都市部である埼玉、神奈川、名古屋、大阪などの駅においても昼間時間帯の無人扱いが増えているようであり、その背景も気がかりだ。

 2022/04/08 西国分寺駅ホーム上にクリニック誕生

 JR東日本の東京近郊区間・中央線西国分寺駅上り1番線ホームに2022年4月4日から民間の診療所が開業した。すでに同駅2番線ホームには薬局もあり、鉄道駅としてはホーム上にクリニック体制を整えた全国で初めての駅となった。
 内科診察室、検査室があり、オンラインを使った皮膚科、耳鼻咽喉科、婦人科も受診できる。

 JR東日本グループのJR東日本スタートアップ(柴田裕社長、東京・高輪)は2018年2月設立以降、持てる鉄道資源を生かして利用者の利便性向上と地域活性化への貢献を目的に活動を行っている。今回のクリニック体制整備もその一環で、欠かせないのは他業種との連携にある。

 そもそも鉄道駅の広告には医療機関が目立っていたが、実際にホーム上に診療所がオープンしたことは鉄道利用者を驚かした。西国分寺駅はJR武蔵野線と連絡駅でもありその利便性は高い。鉄道駅におけるこの一手に大いに注目する。

 2022/04/09 地域の交通の姿

 京王電鉄の北野駅近くに旭ヶ丘団地がある。小高い所で坂道が多く、道路幅が狭い。バスの便がないので高齢者にとっては日常生活に困ることばかり。そうした折に団地自治会は駅前ターミナルのタクシー会社数社と相乗り制度を契約して運行を開始、双方から「大助かり」と喜ばれている。

 東京都品川区は2022年3月末からJR横須賀線西大井駅~JR京浜東北線大森駅間のコミュニティバスの試験運転を始めた。こちらは商業地域でありながら今一つ利便性にかけていた。区役所には「駅やバス停から遠い。道幅狭く不便だし、危険だ」と要望が続いていたという。試験期間は4年間で終盤の実績次第で、その後の展開を見直すもの。所要時間約20分、ダイヤは一時間に2本、運賃は大人220円、小学生以下110円で、東京都発行のシルバーパスも使える。
 相乗りタクシー、コミュニティバス共に住民の声に応える地域の交通のひとつの姿がそこにある。

 2022/04/13 鉄道開業150周年

 今年令和4年(2022年)は、明治5年(1872年)に新橋~横浜間に鉄道が開通して150周年。昔語りで済ませたくないので高輪築堤跡を訪ね、当時の鉄道とその後の歩みに思いを馳せた。

 150年の歴史ある日本の鉄道、そこには世界遺産に相当する資源の蓄積もあるはず。その姿を広範囲にPRして、海外旅行者を含めた誘客策としてはどうか。因みに、鉄道の世界遺産は1998年に最初の認定を受けたゼメリング鉄道(オーストリア)など3社の山岳鉄道で、どれも車窓からの眺めが秀逸だ。山国・ニッポンの鉄道、ローカル線に出番が数多くあるはず。鉄道橋、鉄道トンネル、ターンテーブル等の鉄道施設は産業遺産としての評価も高まっている。

 道路網も発展した今、鉄道開業150周年を契機に『鉄路は全国を繋ぐ地域の架け橋』であることを再認識し、次の150周年に向けてその魅力を多くの人に伝える決意を強くする。

 2022/04/14 自治体の力量

 一般の乗合バスのほか、自家用の通学バスや通院バスも運行されているところが少なくない。
 ただ、それらがバラバラで運行されていては資源の無駄となる。各々が有機的に連携をすることができるならば運行の無駄は減り、よりグレードの高い交通サービスの提供が可能となるに違いない。

 しかし、乗合バスは国土交通省、学校は文部科学省、病院は厚生労働省と行政区分されていて国レベルで三位一体に交通を考えていくのは難しいのが現状だ。

 地域の交通をトータルで考え育てることができるのは自治体しかありえない。ヨーロッパでは公共交通をすべて民間レベルに任せきっているところはないと記憶する。少子高齢化や過疎化を踏まえ、街づくりと一体となった地域の交通整備が喫緊の課題であり、今こそ自治体の力量が問われている。

 2022/04/16 『地域交通を考える』は情報の宝庫

 一般社団法人交通環境整備ネットワークは、今から13年前の平成21年(2009年)4月1日に創設された。創設にあたっては藤井彌太郎慶大名誉教授の後押しがあった。鉄道趣味の人は多いが、全国鉄道路線を乗りつくして、よろず鉄道全般に造詣の深い藤井先生からは、「今あるせっかくの鉄道を社会皆で活用ができるよう願っており、情報と交流の機会をつくって欲しい」との要請があった。

 鉄道をはじめとする地域交通の研究成果を発表・発信する場として同法人からは『地域交通を考える』が毎年出版されている。その時々の時代背景やトピックスも踏まえながら編集がされ、本年は、「鉄道150周年、これからの鉄道」を特集するとの由。まさに地域交通を考える上での宝庫となっている。

 一昨年前から始まったコロナ禍は、社会経済は激しい変動を起こし、人流にも変化を及ぼした。どのような環境の変化にも対応して今持てる交通機関のパワーを維持し、発展させていくことは私達の責務であり、そのためにも一層の情報の蓄積が求められている。

 2022/04/20 普段着姿の鉄道に市民パワー

 桜前線は青森で勢揃い、まもなく北海道へ渡るとか。この時期にいつも手にするのは秋田県の三セク・由利高原鉄道の写真集『由利鉄の詩(うた)』(佐藤和博著、2008年刊)。四季それぞれの鳥海山麓をコトコト走るDC車両の写真と、添えられた短い詩に和まされる。この季節は遅咲きの桜の間に見え隠れする田植え準備の気配がいい。著者の佐藤さんは鉄道の将来を訴え"コミュニティのまとめ役でもある。

 コミュニティをまとめるのは地方公共団体が主体となることと思われるが、昨今の地方交通は路線バスにおいても深刻な状況もあり、市民サイドが主体となっての意思統一や行動が注目されている。そのような中、「秋田新幹線"こまち号"は2022年3月22日に25周年を迎えた。日本海岸沿いの羽越本線新津~秋田間も支線部を含めて2022年に全通100周年を迎える。

 これは「由利高原鉄道鳥海山ろく線(本荘~矢島間23.0km)にとってもその存在を再確認してもらう絶好の機会」と佐藤さんは周囲を励ます。"普段着姿の鉄道"の良さ、ありがたさに市民パワーが光をあてる。

 2022/04/25 茶摘みと静岡鉄道

 茶摘みのシーズンがやってきた。この季節のたびに思い出すのは、静岡鉄道の新静岡~新清水間11.0㎞。1907年(明治40年)にお茶の特別輸出港に指定された清水港へお茶を運ぶために建設を計画し、翌1908年5月180日に開業した。今年(2022年)で開業114年目を迎える。

 静岡といえば、ご存知民謡"ちゃっきりぶし"(北原白秋作詞、町田嘉章作曲)。この民謡は静岡鉄道の依頼で1927年(昭和2年)につくられ、同社狐ヶ崎駅近くの野外劇場で盛大に披露されたという。それにもかかわらずこの "ちゃっきりぶし"に静岡鉄道の名前は出てこない。同社に質すと「一企業の宣伝意図より、地域振興に繋がる"ご当地ソング"として楽しんでいただく」と返ってきた。

 かつて小欄が狐ヶ崎を訪ねた折に出会った人からは「茶祖は約800年前に宋の国から原種を持ち帰った駿河国大川村栃沢(現静岡市)生まれの聖一国師(しょういちこくし)で、この近くに御堂がある」と教えていただいている。彼の地に思いを馳せ、無性に香り豊かな新茶を味わいたくなった。

 2022/04/27 地道な点検と長寿命化を

 アルピコ交通(長野県松本市)は、2021年8月の大雨で松本駅近くの田川橋梁39mの橋脚2本が被災。以後、渚駅・松本駅までをバス代行輸送していたが、2022年6月10日に松本駅・新島々駅まで全線14.4kmの全面復旧の見通しがついたという。これで上高地へ向かう鉄路は平常に戻るため、受け入れる日本アルプス山麓の人たちも「新緑と残雪を大勢のお客さんに一層楽しんでもらえる」と大喜び。

 その陰では多くの方の寄付金支援が寄せられ、同じ長野県内の上田電鉄、しなの鉄道、長野電鉄三社が自社キャラクターを揃えたグッズなどを販売してその収入を支援活動に当てていることも話題を膨らませている。また沿線の松本大学の学生が同線活性化に陰に陽に協力しているのも心強いところ。

 近年の気候変動で風水害は激しさを増す一方。全国の鉄道の橋りょう数は約10万2,300箇所、トンネルは約4,700箇所で、いずれも建設経年の古いものが多く油断は禁物。日頃の地道な点検と長寿命化のための補修が欠かせない。

 2022/04/29 街歩きへの誘導

 京王電鉄は、京王線高幡不動駅近くの大規模団地2ヵ所の高齢者を主対象に外出意欲を誘う実証実験を試みた。参加者に電波発信器「ビーコン」をつけてもらい、駅周辺のポイント付与個所を訪ねるとビーコンが作動しポイントが付与される。ポイントが一定数に達すると商品交換される仕組みで、それによって町歩きを楽しんでもらうのが狙い。参加者には「決まり切った病院や金融機関など以外への街巡りをして息抜きチャンスになった」と好評だった。

 ポイントが付与されるのは、市役所、図書館のほか、生花店、菓子店、書店といった商店などの19ヵ所。それぞれの箇所で1ポイントが付与され、例えば生花店で累計50ポイントを得た参加者にはきれいな花がプレゼントされた。地元自治体の日野市は、高齢者にとって心身の健康に役立つものと助成事業として認定したという。
 これまでの鉄道はどちらかというと来る客を待つという待ちの姿勢が色濃かった。ビーコンを利用して沿線住民の行動を促すこの実証実験に乗り出した京王電鉄は今後データを精査し、システムの活用を検討するとしている。

 2022/05/04 上信電鉄のシーラカンス

 2022年2月12日、上信電鉄(群馬県)のデキ1形電気機関車のフェスタが人数限定で開催されて話題になった。98年前の1924年(大正13年)にドイツ・シーメンス社から輸入した国内最古級の車両で、"上信のシーラカンス"の異称があるほど。観光庁の後押しで実現した構内での牽引運転ではあったが、ファンはしばし懐かしの汽笛に痺れた。これは小欄のファンからの情報。

 群馬県は全国トップクラスの自動車王国。それだけに県内の中小私鉄は揃って苦心が絶えない。上信電鉄沿線には世界遺産・富岡製糸場跡や妙義山、神津牧場、荒船山などの観光地が並んでいるが、コロナ禍の昨今盛り上がることがない。そうした時の汽笛一声は、ファン以外の周辺の人たちへの励ましにもなったとのこと。

 同社は、上野(こうずけ)鉄道として127年前の明治28年(1895年)に創立した。私鉄界では南海電鉄、伊予鉄道に次いで3番目に歴史ある鉄道だ。高崎~下仁田間全線開通は明治30年9月。さらに大正10年(1921年)の国鉄との連絡運輸をはじめてから社名を今の「上信電気鉄道」に改めた。そして大正13年に全線電化を行い、その時が"上信のシーラカンス"の産声の時でもあった。

 2022/05/05 平穏の日々のありがたさ

 「鉄道を標的」というウクライナでの戦争ニュースに驚愕。77年前の東京空襲の時、九死に一生を得、その後も逃げ惑う先々で米軍戦闘機B29に追われる毎日だったからだ。

 B29といえばJR紀勢線紀伊田辺駅の奥地の龍神村で1945年5月5日に日本の戦闘機に撃墜され、搭乗米兵11名中7名が死亡、4名は脱出したがうち3名は処刑、1名は不明。龍神村では直ぐに供養が行われ、以後毎年5月5日に慰霊祭が営まれてきている。こどもの日でもある今日、あらためて平穏の日々のありがたさを実感する。

 2022/05/09 甲州犬目峠

 ざっと30年ぶりの上野原駅ホームに降り立った。リニューアルされ、期待していたツツジの群生は皆無。気を取り直して山梨県上野原市域の犬目地区遠見(とおみ)へ。ここは葛飾北斎(1760~1849年)の富嶽三十六景「甲州犬目峠」で知られた所。

 出会った旅人が言うには「鉄道、バス事業者の旅案内は不十分。東京都心からここに至るルート調べに往生した」と。左右の稜線を延ばす富士山を遠見しながら、「絶景に呼ばすとも集うだろう」式の観光のあり方であってはならないと感じた。因みに犬目(いぬめ)は、旧甲州街道の宿場町。

 2022/05/10 地方鉄道の行く先は

 京王線電車内で隣り合わせた男子高校生が突然広げた読売中高生新聞の見出しは、「地方鉄道の行く先は」。話を聞くと「自分は特段鉄道ファンではないが、都会に居ても地方のことを知りたい気持ちで読んでいる。スマホの小さい画面では読み取れないことも新聞だとわかりやすい。」とのこと。見出しの内容が気になり、降車駅でその新聞の販売店を探し出し、買い求めた。

 島根県内のJR木次(きすき)線の窮状を中心に「地方を走る鉄道が苦しいのはマイカーの普及、高速バスの広がり、地方の人口減少、高速道路の延伸、そしてコロナ禍」と原因を分析、廃止以外の選択肢で成功した上下分離方式の解説や、BRT、LRTの例、鉄道事業者の努力を紹介、あわせて利用者の切実な存続希望の声、そのための活動の様子など3ページにわたる内容は濃く、そして分かり易かった。

 記事が波紋を呼び、地方鉄道を活かす取り組みの輪が、若い人を巻き込んで大きく広がって行って欲しいと願う。

 2022/05/11 四鉄道合同ハイキング

 群馬県の桐生、足利両市は隣り合わせのうえ日本遺産等の見どころも多く、街並みは情緒豊か。その人気スポットをJR東日本、東武鉄道、上毛電鉄、わたらせ渓谷鐵道の4社が結束、「四鉄道合同ハイキング」として、街めぐりを誘っている。

 ハイキングのスタートとゴールは、桐生駅など4箇所で受付。巡るポイントの順番やレンタサイクルの使用・不使用、一巡の日数など全てが参加者の好きなようにレイアウトでき、達成したスタンプ数によって景品も用意されている。

 女性が養蚕、製糸、織物で家計を支え、夫たちはそのかかあ天下に感謝をしていたと言われるこの一帯には、日本遺産の桐生織物記念館や織物参考館紫、史跡の足利学校などの観光スポットがあり、会期は2022年9月30日まで。鉄道合同の"輪の力"で地域のパワーを引き出し、鉄道利用にも繋げたい、と4社は期待する。

 2022/05/13 ヒマラヤの青いケシを求めて

 栃木県の上三依水生植物園は、三セク・野岩鉄道の上三依(かみみより)塩原温泉口駅近くにあり、東武鉄道浅草駅から特急リバティが直通している。人気の花の一つに"ヒマラヤの青いケシ"がある。青の花弁と黄色の雄しべの花姿は抜群だが高山植物なので日本での栽培は難しい。同園は「天候次第だが、5月末から6上旬がお楽しみごろ」と案内している。園内約2万2千㎡は8ブロックに仕切られ、300種3万本ほどの草花がそれぞれのシーズを待ちかねている。4月から8月末までの間は無休で開園しており、塩原、川治などの名湯にも近い。

 青いケシを求めての旅は、浅草からのゴールデンルートだけでなく、JR線新宿から大宮、栗橋経由東武線・野岩鉄道のルートを利用する旅も良いのではないか。なのに今ひとつこのルートについてのPRは不足しており、広報下手であることは否めない。昨今の状況下であれば"待てば海路の日和あり"の時ではないはずなのだが。

 2022/05/17 別所線ラン&ウォーク

 長野県の上田電鉄別所線沿線で「別所線と走ろう実行委員会」が主催する"第12回別所線と走ろう、歩こう!!ラン&ウォーク"が、2022年5月21日に3年ぶりに開催予定で、募集は400名。「別所線の将来を考える会」(竹田貴一会長)などの市民団体が共催、上田市等が後援して力こぶを入れる。

 コースはスタートの戦国武将の真田幸村でお馴染みの上田城からゴールの名湯・別所温泉まで約18km。スタートの10時20分からゴールの15時30分(終了)までは「走っても、歩いても、途中で別所線に乗っても自由にOK!」という一風変わった趣向。主催者は「日本一楽しく、緩やかなランニング・ウォーキングイベント」とPR。参加費(大人4,000円、小学生2.300円、中・高生2.800円)が必要だが、別所線一日乗り放題チケットや温泉の利用券等が付き、ゴール後にはプロレス大会、和太鼓演奏、特産品バザーなども楽しめるとあって反応は良いという。

 全国各地の鉄道会社はハイキングに力を入れているが、一般に参加費は無料か、取ることがあっても保険相当額ということで開催されている。別所線のラン&ウォークのように付加価値を高めて企画切符の一種として発売すればビジネスチャンスとなるかもしれない。

 2022/05/19 鉄道で行く世界をめぐって人を知る旅

 NHKラジオ第2で毎週日曜の午前6時45分~7時25分(再放送 毎週土曜 午後6時)"こころをよむ"を偶々耳にした。サブタイトルは『鉄道で行く世界をめぐって人を知る旅』。俳優・関口知宏さんの語り口に、これまでにない鉄道の魅力に取りつかれた。鉄道旅と言えばテレビでの放映を見ることが多いが、ラジオで聞く旅は格別である。

 2022年4月から6月の間の12回シリーズで、ドイツ、スペイン、スイス、中国などを終え、6月からはスウェーデン、ポルトガル、イギリスなどが続く予定。土曜日には再放送(毎週土曜 午後6時)もあるし、テキストで読むこともできる。映像を見るのとは違って、景色や出会う人の想像が掻き立てられ、さらに良いことには目を閉じて寝床からも聞くことができる。

 その昔、訪ねた国々での言葉は通じなくても笑いを忘れずに握手をさせてもらった人たちのあの日のことなどを思い出し、あえて宣伝をさせてもらう。

 2022/05/22 パリ・リヨン駅の駅弁

 奥羽本線大館駅前に駅弁・花善がある。駅での立ち売りは止めて久しいらしいが、そこの「鶏めし弁当」の味を忘れられないひとりだ。その近況を八王子駅の駅前食堂で耳にした。アクリル板越しの二人客の会話は、「パリのリヨン駅で鶏めし弁当を見た時は本当にびっくりした。なんでこんな所で~!?って」。思わず、こちらも耳をそばだててしまった。

 明治32年(1899年)創業の駅弁・花善本店に真偽の程を電話で確かめた。2021年11月から半年間の販売で、「まずは結構な評判でした」との答え。駅弁の海外出店は横浜・崎陽軒の台湾への進出例もあり、海外での日本食人気の昨今、この手をもっと使えないのかと思う。一緒に民謡・秋田音頭の一節「大館曲げわっぱ・・・」も流せば更に評判を呼ぶのでは。

 昨今は、旅行客の減少で駅弁業者も大弱りしているはずだ。昔のようにホームに停車する列車まで出前同然で商う立ち売りは無理であろうが、まずは身近な国内客向けに、例えばスーパーなどと連携して広く販売することはできないだろうか。「弁当、べんとう」の売り声とその味が無性になつかしい。

 2022/05/26 因美線全通90周年

 岡山、鳥取両県の南北を結ぶ因美(いんび)線の名前の由来は、起点、終点の旧国名である「因幡」と「美作」の頭文字からだと教えられ、線名に興味を持つようになった。僅か2~3文字の中に歴史・文化・民俗が秘められ、それを知ることで旅心を膨らませることができるからだ。

 因美線は大正8年(1919年)12月20日に用瀬・鳥取間を開業、その後4度の延伸の末、昭和7年(1932年)7月1日に全線開通した。それから数えて2022年7月1日で全通90周年を迎える。そこでJR西日本は3年ぶりに観光列車『みまさかスローライフ列車』を運行し、地元に元気を取り戻してもらおうと計画している。地域の魅力の再確認の要となるもので、利用者が増え、共存共栄を願う気持ちで地元住民も心待ちしている。

 ちなみに因美線が乗り入れる津山駅は、津山線、姫新線とも連絡する要衝駅で、駅近くの『津山まなびの鉄道館』にある国内で2番目に古い旧津山扇形機関車庫跡(近代化産業遺産、鉄道記念物指定)は、地域のシンボル的存在だ。

 2022/05/28 押し鉄の後押し

 「押し鉄」とは「駅スタンプ」をスタンプ帳に押して歩く鉄道ファンのこととか。その駅スタンプの第一号は昭和6年(1931年)5月5日に福井駅で産声を上げた。きっかけは当時の駅長である富永貫一が駅職員からお伊勢参りのご朱印を絡ませた雑談を聞いたことからヒントを得たものによる、といった話を、偶々手にした雑誌・小説新潮2018年6月号『鉄道大特集』の中の『山手線「駅スタンプ」の暗号』で知った。
 
 筆者は女性鉄道ライター・蜂谷あす美さん。山手線全29駅(当時)を一日で乗降し、駅スタンプ紹介と共に近くの名所旧跡を確認して歩いた。「駅にもスタンプがあれば旅人から歓迎されるだろう」という駅スタンプの始まりを実証するためだった。「しかし、駅スタンプには図柄以外の説明は一切載っていないし、駅との関係性に触れていない」と急所を突く。と言いながらも「コレクター癖の多い鉄道ファンとは非常に相性がいい」との感想も添える。

 全国の鉄道各社は自社のそれぞれのスタイルで駅スタンプを備えているところが多い。近年三セク鉄道が始めた鉄印帳の鉄印集めの人気は極めて高く、ならば今は目立たないこの「駅スタンプ」を沿線名所ともタッグを組んで見直し、押し鉄の心をくすぐる新たな魅力を吹き込むことができないものだろうか。その昔、子どもにせがまれて景品目当ての駅スタンプ集めの手伝いをさせられたことを思い出した。

 2022/05/30 旅は道連れ、世は情け

 津軽地方には岩木山、花巻山の岩石を使用した名園が多い。弘南鉄道の津軽尾上駅から徒歩10分の盛美園(せいびえん)もそのひとつだ。江戸末期から続く「大石武学流(おおいしぶがくりゅう)回遊式庭園として名高い。池泉と枯れ池の両側に築山のある約3600坪は、国指定の名勝でもある。

 ここを尋ねる折に弘南線に乗り合わせた老夫婦から難解な津軽弁での車窓ガイドをいただいた。青空のもとに広がる岩木山とリンゴ畑を目にしながらのひと時だったが、"旅は道連れ、世は情け"を実感したものだ。「盛美園に建てられている成美館から眺める庭の風情は満点」と教えられ、まさにそのとおりであった。

 旅の醍醐味としては訪れた地での人との出会いに勝るものはない。地元の語り口で聞く情報は何よりも確かで豊かなもの。地元を知り地元を愛する心が、また、人を呼び人を招く。

 2022/05/31 種村直樹汽車旅文庫

 レイルウェイ・ライター種村直樹(1936~2014年)は、毎日新聞出身で、鉄道ルポルタージュ、時事評論、推理小説などを書き続けた名文家。1983年には、当時の加悦鉄道(1985年廃線)で日本の鉄道全線完全乗車を達成するなど鉄道ファンにも知れ渡っている。その遺した本の約3200冊が青森県・津軽鉄道に寄贈され、同社津軽飯詰駅に種村直樹汽車旅文庫として開館し評判になっている。もちろん、地域住民の支持を受けてのことだが、小欄所属の一般社団法人・交通環境整備ネットワークの橋渡しがあったことも書き添えたい。

 最近、福井県・えちぜん鉄道、福井鉄道田原町駅にミニ図書館がオープンした。これは市立図書館改築のため、2024年までの緊急避難とのことだが、「電車待ちの時間にのんびりできる」と思いがけない駅の魅力を生んでいるそうだ。肥薩おれんじ鉄道の阿久根駅の図書コーナー利用者からも「ホッとひと息つくのに極めて有効な場所」という感想が届いている。この他に駅併設型図書館としては、富山地方鉄道舟橋駅の舟橋図書館、東急池上線池上駅の池上図書館、JR八戸駅の八戸市図書情報センターがある。

 そうした中で、バスターミナルにおいても同様のものがあることを最近知った。那覇バスターミナルの5階には沖縄県立図書館がある。また福岡県八女市の西鉄バスの福島停留所には小さな図書館を併設し、「つながるバス停」として利用者や沿線住民とのコミニュニティの醸成を狙っている。駅やバスターミナルは単なる交通結節点としての機能だけでなく、図書を通じて地域文化の情報拠点となる可能性を有している。

 2022/06/01 Dohna!!(ドーナ)はナンダ

 北海道内唯一の三セク鉄道・道南いさびり鉄道の社名「いさびり」は津軽海峡のイカ釣り漁船の漁火そのもので、公募トップで命名された。開業は平成28年(2016年)3月26日。路線は五稜郭~木古内間37.8kmだが、JR北海道函館駅まで乗り入れている。その道南いさりび鉄道が発売する鉄道全線と函館バス指定区域内の路線バスが一日乗り放題の「いさりび1日カンパス」が好評だ。

 そもそもは、新型コロナで大きく落ち込んだ北海道の公共交通需要及び観光需要を喚起しようと北海道庁が交通事業者に助成する「ぐるっと北海道・公共交通利用促進キャンペーン」を活用し、2021年12月から発売を行っている。発売額は、大人900円。なんと道南いさりび鉄道の起終点の五稜郭~木古内間の大人普通片道運賃980円より安く、なおかつ周辺函館バスにも一日何度でも乗れ、さらには沿線の店で乗車券を見せることで割引等のサービスを受けることができる。

 乗車券は従来型の紙媒体のもののほか、スマホのアプリDohna!!(ドーナ)から購入してスマホ画面で乗車券を表示して使用ができる。このDohna!!も北海道庁が旗振りをして実現したアプリで、ここからは、他に函館市電の一日乗車券や、函館バスの割引きっぷ等が、いつでも購入が可能。地方の鉄道やバスは、乗車券の発売箇所が限られ、まして他地域から訪れる観光客はどのようなお得な乗車券があるかの情報を得るのも、その乗車券の発売窓口を探すのも容易でない。Dohna!!の発展充実に期待をしたい。

 2022/06/05 歩いて暮らせるまちづくり

 愛媛県松山市は、松山市駅の駅前広場の整備工事を開始した。目標は、「歩いて暮らせるまちづくり」のシンボル広場とすること。

 松山市駅は伊予鉄道の郊外電車に路面電車、バス、タクシーの集まる市内最大の交通結節の要衝であるとともに商店街や城山公園、道後温泉への玄関口でもある。市民からは「時代に合わせた姿を」という声が高まり、市は2018年から整備の検討をはじめて社会実験も繰り返してきた。

 コンパクトシティを目指す中でシンボル広場としての機能をもたせ、街に新たなにぎわいの歩行者を生み出そうとしている。完成は2026年の見込み。

 2022/06/09 私鉄経営に学ぶ

 もう40年前のこと、当時の高木文雄国鉄総裁が私鉄経営者と個別に対談し、『私鉄経営に学ぶ』(交通協力会編)を出版した。東武、東急、西武、名鉄、南海などのトップに鉄道経営のあり方について教えを乞う形の対談内容のもので、国鉄のトップが頭を下げて聞く真摯な姿に驚いた。

 その対談相手の一人に北陸鉄道の竹内外茂会長がおり、当時名鉄グループであった大井川鉄道、福井鉄道、北陸鉄道の三鉄道の経営再建について語っていた。先人の再建にかける熱い思い、気迫の語りは未だに強い印象を残している。竹内会長は国鉄常務理事から名鉄副社長に転じた人。後日、高木総裁からは「身を乗り出して聞いた」との弁。

 島原鉄道の一ノ瀬秀人社長は、当時としては画期的な鉄道とバスの共通定期券を発売しており、鉄道とバスとの連携についての苦心談が語られていた。ふとした時に昔の記憶が蘇るこの頃、今の時代にも通じるものがあるのではないかと思う。思い出すまま今後小欄でも紹介をして行きたい。

 2022/06/13 鉄道とバスの共同経営

 地方の人口減少と高齢化が進み、公共交通機関の維持も難しくなっている。そうした中、2022年4月からJR四国の牟岐線と徳島バスの高速バス路線での共同経営がスタートし、その成果が注目されている。

 対象区間は牟岐線阿南駅~浅川駅間と、徳島バス「室戸・生見・阿南大阪線」の阿南~甲浦間のバス停となっており、この区間ではJRの乗車券類で鉄道でもバスでも乗り降り自由というもの。阿南駅などでバスから鉄道に乗り換える場合もJR乗車券類による通し運賃が適用され、乗継の初乗り運賃は不要となった。

 鉄道とバス双方を同じ条件で利用することが可能となったことにより、利用者にとっては運転本数が増発されたと同じ効果が得られるもので、利便性は向上し、新しい観光開発と地域振興も図られていくものと期待される。複数の交通モードが存在する地域は多い。共同経営という手法が持続可能な地域交通のための大きな切り札となって欲しい。

 2022/06/28 梅雨最短

 ずいぶんと昔になるが、東武鉄道亀戸線小村井駅近くの「雨水(うすい)資料館」を訪ねたことがある。廃校となったの旧立花小学校の建物を利用して、墨田区役所が「すみだ環境ふれあい館」としてオープン、その一角にセットされていた。なんと今年の「梅雨最短」のニュースを耳にして、ふと思い出した。

 当時の取材メモには「東京の年間降雨量25億トンに対し消費水道量20億トン。人々は雨水を嫌い水源地での雨に頼るが、思うままにならない。(墨田区は)天からの貰い水の雨水の活用に雨水資料館を使ってPRに努める」とあった。あらためて調べてみると、廃校舎の老朽化で、6年前に全て廃止されていた。光陰矢の如し。

 雨水は、東京・両国の国技館のトイレなどに活用されているし、区市役所や駅などの公共施設トイレなどでも「雨水使用」の小さな表示を見かけることもある。そういえば雨水資料館の案内係は「水の問題解決は、雨水にあり」、「雨水は輸出資源としての可能性も」と説明していた。この先の水利用はどうなるのか、梅雨最短での水甕も気にかかる。

 2022/06/30 鉄道の礎を築く佐藤政養

 羽越本線吹浦駅前に佐藤政養(まさよし)銅像がある。山形県飽海郡遊佐町生まれ。明治3年(1870年)からの新橋~横浜間の本格的な建設工事では、エドモンド・モレルに協力して各駅の調査、予算確保、測量などを担当した。その後の京都~神戸間、京都~大津間などの鉄道建設にも大きく貢献をした。

 このことを知ったのは「ものがたり東北本線史」(昭和46年国鉄仙台駐在理事室刊、非売品)。850ページにおよぶこの本は、当時の明石孝支社長の意図によるもので、東北6県を総覧する形で、鉄道史の枠を超えて沿線風土記を含めた物語調の筆法が特徴。とかく固くなりやすい鉄道史にはない楽しさが魅力。大正年代の花巻電気、高畠鉄道、庄内電気鉄道など私鉄の名前も次々登場している。

 明石孝支社長や編集に当たった青木雄千代、横山英彦両職員らにも勧められて訪ねたのが吹浦駅前の佐藤政養銅像だった。佐藤政養(1821-1877)は、江戸で勝海舟の塾に入門し、測量学等を学んだという。明治4年(1871年)には初代の鉄道助という要職につき、鉄道頭の井上勝を補佐して鉄道建設に邁進、今日の鉄道の礎を築いた。鉄道開業150年にあたり忘れてはならない人のひとりだ。

 2022/07/01 駅名でたどる県のなりたち

 若い記者の頃、備前といえば岡山、そう思い込んでいた。JR赤穂線の備前福河(びぜんふくかわ)駅は、旧国名・備前国地内にあるから、当然岡山と思っていたが大違い。岡山県ではなく、兵庫県赤穂市域にあったのだ。それも越県合併とかで、岡山県から兵庫県に編入されていたのだった。

 話は続きがあり、兵庫県には旧国名が6つあるので、それが駅名に付いている。土地不案内の関東モノにはややこしくてお手上げ状態だった。但馬、丹波、摂津、播磨、備前、淡路、これが旧国名。それを付け忘れようものならデスクにボツ原稿とされてしまった。しかし、そのために駅名一つで地域の様子に興味を感じるようになり、転勤する先々でデスクの罵倒をありがたく思い出していた。

 当のデスクは、「九州・阿蘇山の杖立温泉には熊本と大分の両県境を跨る「ひぜんや」という老舗旅館がある」などと県境を絡めた話が得意だった。また曰く、明治はじめの四国には松山県、宇和島県、香川県、名東県、高知県の5県があったとか。その地の駅名をたどれば、今ある県のなりたちも楽しめそうだ。

 2022/07/04 旨味車内旅

 岐阜県大垣市と本巣市を結ぶ第三セクター鉄道の樽見鉄道(大垣~樽見34.5キロ)沿線には、樹齢1500年と言われている古木・淡墨桜(うすずみさくら)や明治24年の濃尾地震の震源断層を確認できる根尾谷(ねおだに)地震断層、うすずみ温泉などがあり、何よりも風光明媚な車窓が人気で様々な企画列車が運転されてきている。今年も「薬膳列車運行中」の便りが届いた。

 初代社長の林鍵治さんは国鉄名古屋駅長出身でアイデアマン。地元で採れた旬の山菜を使った薬草弁当を味わう「薬草列車」や、熱々の味噌仕立てのしし鍋を味わう「しし鍋列車」を企画し、"旨味車内旅情"をヒットさせた。前社長・田中良以(よしのり)さんは、国鉄中央学園在学時代に通った歌声喫茶を思い出し、自らアコーディオン演奏して「歌声列車」を企画、沿線に歌声を流し、喜ばせた。現社長の不破道夫さんは、コロナ禍による経営の舵取りの中で、これまでの企画列車の発展を考える。お三方に共通しているのは鉄道の「希望を語り伝える」こと、その気概に声援を送りたい。

 2022/07/08 市民が集う新しい駅

 山形鉄道長井駅は、鉄筋コンクリート3階建て(一部4階)延床面積約8300平方メートルの堂々たる駅ビルだ。実は長井市役所と駅が一体となって2021年5月にオープしたもので、駅ビル南側には市役所が、北側に市民が集う交流スペースと駅舎が配置されている。2022年4月には地元ロータリークラブから駅ピアノが寄贈された。

 長居駅は1914年に開業、その後駅舎は改築され、現在の駅ビルは3代目となる。駅舎の一部に市役所等の窓口サービスが設けられているとものはあるが、長井駅のように議会を含めた市本庁舎と駅が一体となった例は初めてのことだ。

 駅から0分の市役所の利便性は計り知れない。駅前には市営バス5路線と山交バス山形~長井線が通り、タクシーが利用できる。市民が集う新しい駅の形がここにはある。

 2022/08/01 過疎対策に転換

 国土交通省は、2022年7月25日に「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」を公表した。危機的状況にあるローカル鉄道について、コンパクトでしなやかな地域交通に再構築することを目的とし、国、地方公共団体、交通事業者の協力・協働を求め、特に地方自治体は積極的に取り組むべきとされている。

 この提言の直後の28日にJR東日本は、輸送密度2000人未満の利用者の少ない線区の情報公開を行なった。すでに発表しているJR西日本に続くもので、沿線自治体は衝撃をもって受け止められている。JRがこのような状況であるのなら、民鉄のローカル線の窮状は推して知るべし。

 ここ50年程の日本の移り変わりを振り返ってみると、「過密」と「過疎」が大きなキーワードになっている。恥を承知で所持する何冊かの辞書で調べたが、「過密」は鉄道ダイヤ、「過疎」は町村の人口減少を例にしており、「過密」はあっても「過疎」表示のないものもあった。都市鉄道の混雑率は目標としていた150%以下を達成しており、鉄道行政は、「過密対策」から「過疎対策」に大き転換すべき岐路に立たされている。

 2022/08/21 夢の中でも走りたい

 旧高千穂鉄道は、延岡~高千穂50.0kmを結ぶ第三セクター鉄道であった。しかし、平成17年(2005)9月6日に襲った台風14号で壊滅状態となり、その復旧には膨大な経費が必要となることから、止む無く廃止に至った。この高千穂鉄道の事業を引き継ぐために2006年に設立された高千穂あまてらす鉄道は、2017年から空模様をうかがいながら30人乗りの観光用グランド・スーパーカートを高千穂~高千穂鉄橋間往復5.1kmで運転を行なっており、この車両からの見ることのできる、高さ105mの高千穂鉄橋からの絶景が人気を呼んでいる。

 同社専務の齊藤拓由さんから高千穂発の記録文芸誌『かなたのひと』第3号が送られてきた。まだ高千穂鉄道が走っていた頃の運転士時代の思い出話「夢の中でも走りたい」(執筆:齊藤拓由)に思わず引き込まれた。「怪しい乗客」、「通学生で賑わう車内」、「無性にせつなくなる」、「トンネルの入り口で」、「婆ちゃんと危機一髪」、「最終列車で海へ」などワクワクする小見出しに利用者と触れ合った当時の話題が満載だ。読者は間違いなく「夢の中でも走りたい」という思いで一杯になるに違いない。

 2022/10/09 祝 JR只見線全線運転再開

 2022年10月1日にJR只見線が11年ぶりに全線(会津若松~小出間135.2㎞)開通した。2011年(平成23年)の新潟・福島豪雨で会津川口~只見間27.6㎞が被災、特に奥会津一帯の只見川に架かる多くの橋りょうが流失、崩壊した。利用者の少ないローカル線でもあり、関係者間で鉄道復旧、あるいはバス転換等様々な議論がなされた。その結果、復旧のための工事には国、沿線自治体、JRが共に費用を負担し、運転再開後は上下分離方式により沿線自治体が施設の維持を行うとする合意形成がなされた。しかし、復旧工事は地形的制約もあって難工事が繰り返されてきた。

 この間、バス代行輸送で住民の暮らしを維持、守り通していた。小欄も「只見線応援団」に参加していたが、多くの住民からはバス運行への感謝の声が絶えない。この長い代行輸送の経験も活かして鉄道とバスとの連携を進めていってほしい。折からのローカル鉄道存続論議に火がついているとき。只見線復旧全線運転再開を原動力に、視点を広げた官民挙げての議論の場ができることを願う。

 2022/11/17 干し柿のれんに託す沿線住民の願い

 今年も岩手県の三セク・三陸鉄道リアス線の"干し柿のれん"が車窓の評判を集めている。そればかりか、平成11年に三陸駅で最初に手掛けた大船渡市観光協協会(斉藤俊明会長)職員と近隣住民は、23年目の今年から盛(さかり)、綾里(りょうり)、吉浜各駅も加わって4駅揃い踏みとなったので、「地域おこしのパワーに成長」と元気百倍の様子。

 むかしからこの一帯は自家消費用の渋柿が多いところ。これを活用することで地域活性化に役立てようと考え、渋柿提供、皮剥き、運搬、吊るし作業などは全て同協会職員と地域住民が一緒になって無料奉仕で活動を続けてきた。今年はその数ざっと 8000個。関係者は「まずは三鉄利用者を増やすPRのお役にもたちたい。同時に、狭い地域意識にとどめたくない」と熱い弁。甘くなるのは正月前で、「初日の出列車などの正月ダイヤ利用客などに無料提供して感謝の気持ちを伝えたい」と沿線住民の願いをこの柿に託している。

 2022/11/27 鉄道と美術の150年

 JR東京駅丸の内北口の東京ステーションギャラリーで『鉄道と美術の150年』が開催されている。明治5年(1872)の新橋~横浜間開業から今日に至る鉄道まで、年代別に大きな節目ごとにまとめて展示を行っている。作品は、全国の博物館、美術館、大学、個人秘蔵など約40カ所から協力を受け、その展示数も150年にちなんで150点。
鉄道あれこれ
 「美術」という言葉も鉄道開業の同時期に生まれた言葉とか、わが国の鉄道は美術とともにも歩んできたことになる。展示作品は、錦絵、絵画、写真、木版や珍しい手織錦もあり、それぞれの解説では、時の人物や、その時代背景との関係を紹介している。これからも、鉄道が様々な美術作品に描きこまれていくには、作者を触発するだけの魅力を鉄道自身が持ち続けていく必要があることを、作品が教えてくれる。会期は2023年1月9日まで。

 2022/11/29 落とし物のオンライン管理

 警察庁は、全国の警察の落とし物管理システムを順次統合し、遺失届をオンライン化して、その拾得物をネットで検索できるようにすると発表した(読売新聞2022年11月11日付け朝刊)。2023年3月には、青森、新潟、長野、福井、京都、奈良、鳥取、岡山、長崎、大分の10府県で先行導入し、2026年度末までには全国で導入されるという。

 2021年に全国の警察が受けた遺失物届は約356万件、拾得物届は約1713万件。鉄道各駅での拾得物も増えているようで、このシステムの稼動により発見が高まると期待される。乗換え列車を利用した旅先での落とし物、忘れ物ともなれば、諦めることも多いが、以前、島根県の一畑電鉄から東京の自宅へ「ありましたよ」の電話連絡を受けたときの嬉しかったこと。あの時の感謝の気持ちは今も忘れることはない。

 2022/12/01 鉄道と耐用年数

 千葉県の三セク鉄道・いすみ鉄道の気動車キハ28が引退したとテレビニュースで賑わった。「鉄道車両の耐用年数とは何年なのか」と問われて調べた。税法上の法定耐用年数は機関車18年、電車13年、内燃動車11年、貨車10~20年と再確認した。しかし、物理的にはそれ以上の長い歴史を刻むことができる。とは言っても安全に運行するためには日々のメンテナンスが欠かせない。

 コンクリート造りのトンネルは60年、鉄鋼橋りょうは50年、鉄道においては既にその耐用年数を超えているものが過半数となっている現状だ。維持・整備には人手も額もかかる。計画的、戦略的な維持管理が求められ、国・地方の支援が欠かせない。

 旧聞に属するが、フランスはパリのLRTは、自動車交通量を削減してLRT利用にシフトさせるために道路の車線を削って軌道を敷いた。LRTは必要な社会資本として認知し、公がその基盤を整備し、維持をしていくという視点が明確な例だ。

 2022/12/03 温もり列車

 ひときわ寒さを感じるこの時期に、無性に乗車したくなるのは津軽鉄道のストーブ列車と三陸鉄道のこたつ列車。ともに車内の暖にこころまで温もりながら窓外の野辺の地吹雪景色や海の荒波模様を楽しめるのが最大の魅力。

 津鉄のストーブ列車は、同社開業の昭和5年(1930)から始めて今年で92年目、列車は4代目。係員が達磨ストーブに石炭を投じる音も懐かしさを呼ぶ。三鉄のこたつ列車は平成17年(2005)に登場。こたつの中には火の気はないが,そのぶん車内暖房を利かせている。ストーブでの焼き立てスルメ、こたつに入って開く弁当も嬉しい。

 2022/12/06 わたしたちが創る展

 公益財団法人鉄道弘済会の総合福祉センター・弘済学園(神奈川県秦野市)に学ぶ児童、生徒の作品展示会がJR東京駅丸の内北口地下で開催されていると聞き、出向いた。今回で第60回となる展示会タイトルは、『わたしたちが創る展』。

 同学園は知的障害、自閉症児者の自立支援を行っている。前身は昭和28年(1953)に千葉県山武郡で開設された『日向(ひゅうが)弘済学園。当時の十河信二鉄道弘済会会長が「心身障害福祉の父」と呼ばれた糸賀一雄滋賀県立近江学園長と連携して創設がされた。十河はこの後に乞われて国鉄総裁に就任、新幹線建設を導いた。

 展示会での作品は、壁掛け、木彫、タイルモザイク、ビーズ、手芸品など約3000点。どれも一朝一夕に身につけた技(わざ)で作られたものではない。それだけに来場者は感嘆しきり。丹精込めたシクラメンなど鉢物も人気で、私も一鉢買い求めて帰路についた。

 2022/12/09 大学の秘蔵コレクション

 京王電鉄の沿線には56の大学・短期大学があり、その情報誌として『みんなの大学』(A4判・6,12月刊)が京王エージェンシーから発行がされている。地域と大学を結びつる目的に、大学を目指す高校生のみならず一般の読者にも向けた編集が行われてきいているが、2022年12月最新刊の第29号は、「大学の秘蔵コレクション」を特集。

 明治大学博物館からは、収蔵45万点の中の譜代大名内藤家の文書や12代酒井田柿右衛門の作品、鉄道ファンには嬉しい鳥瞰図の「京王電車沿線案内」など。國學院大學博物館からは、古墳前期の挙手人面時、古墳中期の被葬者用の石枕(重要文化財)など。国際基督教大学博物館からは敷地内から発掘された旧石器、縄文時代の石器類、各地から集められた草木染・染型紙など、沿線15大学の貴重な収蔵品の中から、「これは」という秘蔵コレクションの数々を紹介している。

 本誌は、京王電鉄各駅で無償配布されているとともに、インターネット(https://www.keio-ag.co.jp/mindai/)でも公開。公立の博物館とはまた趣が違って、それそれの大学の特色を備えた中での秘蔵コレクションを尋ねてみたくなることに間違いない。

 2022/12/15 書店の減少に心痛める

 書店が減少している。2000年には全国で2万1千余店あったものが2020年には1万1千店と半減(出版科学研究所調べ)。過疎化やインターネットの普及による活字離れ等が原因と思われるが、残念であり不便極まりない。

 新聞情報によると、書店のない市区町村は26%で、一軒はあるという所を含めても40%だという。信じがたいが、そうだろうなと頷いてしまった。地方ローカル線の駅前にあった書店も姿を消している。旅する土地不案内者には駅前書店は気楽に出入りが自由で、その土地の情報を得る最高の場所でもある。地元出版社の郷土史や風俗・風習を調べた珍しい本に出会うこともあり、また何よりもそこの店主の話ほどありがたいものはなく、郷土自慢に加え郷土の鉄道の自慢話も幾度となく聞いてきた。そこでの情報を頼りに沿線を歩いたことは数えきれない。

 かつては列車の中で文庫本か新聞を広げる人が数多く見られたが、今は乗客の8割はスマホに夢中。たまに文庫本を広げている若者を見かけると、世代を超えた同士と嬉しく声をかけたくなる。とは言っても老いた我が身としては白内障も進み、文庫本の小さな活字を読むのは苦手となってしまったが。

 2022/12/19 鉄道技術の継承

 鉄道の技術方面には疎いが、しばしば取材先で話題になる。その折に出る言葉が「若手への技術継承の課題」。各地の鉄道車両基地で世代を超えての会話の難しさや、若手の早期退職、定着が課題と何度も聞いていた。その度合いが強まっているとも耳にしてきた。

 そうした中で、厚生労働省は2022年度「現代の名工150人」を発表した。その中に(一社)日本鉄道車両工業会推薦の「鉄道車輛組立工」森勝利さん(60)の名前があり、功績に「若手育成に貢献」の一文があった。森さんは日本車輛製造株式会社豊川製作所に所属、溶接品質や図面読み取りについて実物同然の教材を作成し、若手の技量向上教育の実践を行っているという。

 鉄道の安全は、技能者の働きによって支えられているが、なかなか表立っての話題にならない。縁の下の力持ち的存在を忘れてはならないと自戒する。地方の鉄道には都会から転身してきた車両が目立つが、その運用に当たっては運転操作の習熟のみならず、メンテナンスの技術習熟、その伝達が欠かせないからだ。

 2022/12/20 JR津軽線の復旧協議

 「廃線も存続も可能性としては含まれる」、それは2022年12月19日のJR東日本盛岡支社の定例記者会見で久保公人支社長の発言内容。今年8月の豪雨でJR津軽線蟹田~三厩間28.8kmは未だに不通となっており、復旧には、少なくとも6億円はかかるとのこと。

 JR東日本は、2022年11月に平均通過人員2.000人/日未満の35路線、66区間の経営状況を公表している。JR津軽線もその中にあって、中小国~三厩は98人/日だ。JR東日本は、年明け早々にも県や関係自治体と協議をする方針という。地域がどのような交通サービスの提供を望むのか、協議の行方を注視したい。

 2022/12/25 ネーミングの優秀賞に「鉄印帳」

 ネーミングは、購買者、利用者の認知度を高めるためにも大切だ。このほど第三セクター鉄道等協議会加盟40社で始めた「鉄印帳」が(一社)日本ネーミング協会(東京・港区麻布台)が主催する第3回「日本ネーミング大賞2022」の優秀賞に選ばれた。

 今でも印象に残っている鉄道のネーミングは数々ある。「DISCOVER JAPAN」、「青春18きっぷ」、「フルムーン」、「1枚のきっぷから」、「いい日旅立ち」、「エキゾチックジャパン」・・・列車名では、「はと」、「つばめ」、「北斗星」、「ななつ星」・・・その名を聞いただけで思いが膨らむ。これからも粋を凝らしたネーミングに出会えるのが楽しみだ。

 2023/01/09 御神籤へ託された思い

 日本古来の風俗・習慣のあり方も大分様変わりしてきているが、初詣の御神籤(おみくじ)に一年の吉凶を占うこの習いは今も変わりない。

 JR山陽本線徳山駅から防長交通のバスで約1時間の終点・鹿野(かの)近くに二所山田(にしょやまだ)神社がある。明治40年(1907)に二所、山田両神社が一緒になって今に至るが、当時の宮司である宮本重胤は"女性の自立"を目的に機関紙『女子道』を発行、その資金確保のために御神籤づくりを始めた。今では全国の社寺で扱う御神籤の約7割は同社のものと言われている。

 男尊女卑の風潮が根強かった時代にあって、いち早く女性の権利を擁護し地位向上のために労をいとわなかった神官がおり、それは平塚らいてう等の女性解放運動より以前のことであった。御神籤に託された神官の思いを知って有難さもひとしおだ。さて、今年の運勢は何と出るか。

 2023/01/11 待ちわびる全線復旧

 2016年4月に起きた熊本地震から今年で7年。被災した三セクの南阿蘇鉄道(略称「南鉄」)の全線復旧に向けた工事が最終段階に入り、この夏には立野~高森間17.7kmの全線が開通する見込み。同社社長の草村大成高森町長は「南鉄は阿蘇観光のシンボル。JR豊肥線との乗り入れを実現させ、ローカル鉄道の復旧モデルにしたい」と意気込む。

 最難関工事は立野駅近くの第一白川橋りょう工事だったが、新たな橋りょうに架け替えられた。位置はほぼ同じ。阿蘇五岳の一つ、根子岳(1433m)を源に有明海へ注ぐ白川を跨ぐ長さ約166m、高さ約60mからの眺めは絶景。2022年9月に行われた"南鉄レールウォーキングツアー"の参加者からは「立ち入り不可能なところの貴重な体験ができた」と喜びの声が寄せられた。

 2022年11月に導入された新車両MT4000形2両(新潟トランシス製)の活躍が待たれる。外国人観光客の受け入れのための多言語化対策や車いすスペースの確保等きめ細やかなサービスを提供するとともに、車体の彩色デザインに運転士のアイデアを活かして沿線に流れる白河の水を象徴したものとなった。人々は、「地域との連携に希望を募らせる再出発になる」と、その日を待ちわびる。

 2023/02/01 水、日曜日は運賃無料

 佐賀県は2023年1月、2月の毎週水、日曜日に県内路線バスの運賃無料サービスを実施。「費用は県が補填」と県交通政策課が強力にバックアップ。「さがバスまるっとフリーDAY」と名付けられたこのサービスは、県民はもちろん県外からの観光客も恩恵を受ける。

 佐賀県内を走る佐賀市営バス、昭和バス、西鉄バス、JR九州バス、祐徳バス、西肥バス、ジョイックスバスの各路線バス(高速バスは除く)と地域のコミュニティバスのいずれでも利用ができ、それぞれ利用者も増えているとのこと、これを機にバスの利便性に目を向けて欲しいものだ。できることなら無料でのバス利用者増による地域への経済波及効果も測定願いたい。

 2023/02/02 鉄道開業100周年

 2023年中に開業100周年を迎える鉄道線が9線もある。銚子電気鉄道線、遠州鉄道線、長良川鉄道線(旧越美南線)、東急電鉄目黒線、同多摩川線。JR東日本烏山線、同山田線。JR西日本姫新線、JR九州筑肥線の各線だ。

 100年間毎日、毎日走り続けてきた鉄道に最大の祝意を贈るとともにこの間運行に携わってきた多くの鉄道マンのご努力に敬意を表したい。一方で、100年を迎えることなく廃止された多くの鉄道線があること、100年続いたからといってこれからも安泰とは言えないことを肝に命じておきたい。

 2023/02/03 パターンダイヤ

 遠州鉄道を利用している知人から「駅によっては列車ダイヤを毎時同じようにセットされていて、いちいち時刻表を確かめずに利用できる」との話を聞いた。「パターンダイヤ」を組むことにより、規則性のある時刻表の掲出が可能となる。

 私が利用している京王線も昼間帯は分かりやすいパターンダイヤとなっている。ただし、日中は13本もあってそもそも時刻表を気にして乗ることはない。本当に必要とされるのは、本数の比較的少ないローカル線なのではないか。

 2023/02/04 電動キックスケーター解禁

 これまで電動キックスケーターは原付きバイク扱いで運転免許が必要であったが、道路交通法の改正により2023年7月から「特定小型原動機付自転車」扱いになり、16歳以上なら免許不要で自由に乗れるようになる。

 電動キックスケーターを目にすることの多い東京・立川市周辺住民の間でも関心事となっている。同地区の南北には多摩都市モノレールが走っており、モノレール側にしても駐輪方法を考えなければならない。

 電動キックスケーターによる人身事故例もあると聞く。新しいモビリティとしての地位を獲得するためには、乗り手の安全意識向上とともにその利用環境の整備が欠かせない。

 2023/03/06 運転士による車椅子介助

 JR青梅線立川~奥多摩間37.2kmの間には多くの景勝地を抱え、観光客も多い中、11の無人駅を有する。現在無人駅を車椅子で利用する場合は、事前に連絡を行なって近くの有人駅から駅員を派遣することで対応が行われている。

 しかし、2023年3月18日のダイヤ改正から、この無人駅のうちの日向和田、軍畑(いくさばた)、川井の3駅では運転士によって車椅子介助が始められるという。事前連絡なしに即座に車椅子介助対応が行えることとなるもので、懸案の課題に少しでも解決の糸口を見つけようとする鉄道現場の姿勢が嬉しい。高齢化社会が進む中で、人にやさしい鉄道が必要とされている。

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