鉄道あれこれ

プロフィール

鉄道コラムニスト
交通新聞記者を経て、社団法人日本民営鉄道協会常務理事として長く民鉄の広報活動に携わる。
独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の機関誌や交通公論等の運輸専門誌に記事を連載。
一般社団法人交通環境整備ネットワーク審議役

目次

2020/06/16 コロナ禍に耐える津軽鉄道

 青森県の津軽鉄道(愛称・津鉄)。作家・太宰治のふる里・金木辺りを走る鉄道で、津軽半島の突先から北海道への眺望は格別だ。

 JR五能線五所川原駅前の津軽五所川原~津軽中泊間20.7㎞。全線非電化単線。
いつもなら遠望する岩木山をバックにリンゴ畑が映え、大稼ぎの多客期だが、今年はコロナ禍でそうもいかない。乗客数は対前年約65%の減少、収入は同じく約74%の減少と苦難が続く。手元資金が少ないうえ、運転資金難。リンゴ・マスクを売るなど知恵を絞り、社員は「コロナに耐えて鉄路を守る」と頑張っているが、限界は目に見える様子。

 澤田長二郎社長は20社加盟の東北鉄道協会会長。東北6県全域に目配りしながら、大車輪で他社の窮状を国や自治体にさらなる救援を繰り返している。

2020/06/19 平面交差もある伊予鉄道

 愛媛県の伊予鉄道(愛称・伊予鉄)。松山といえば松山城、名湯・道後温泉などの観光名所が次々浮かぶ。伊予鉄はそれらを市電・バスの公共 交通機関で繋ぐ。なかでも"坊っちゃん列車"はお馴染みだろう。

 明治20年(1887年)創業で、大手の南海電気鉄道(大阪・1884年)に次いでわが2番目に古い私鉄。平成30年(2018年)に少子高齢化、人口減少化の社会事情に合わせた事業展開を目指して持株会社「伊予鉄グループ」体制に移行、チャレンジプロジェクト事業計画を推進中。柱は、①乗ってみたくなる電車・バス、②観光振興への対応,③お客さま視点での安全・サービス向上の3本。
 その証の一つがこの5月に公益財団法人交通エコロジー・モビリティ-財団(会長岩村 敬)から受けた第11回EST交通環境大賞。「地方からの挑戦」が認められたものだが、こうした社会評価は垣根を越えて紹介したい。

 市民から「坊っちゃん列車だけでない。鉄道線を忘れては困る」という声を聞いた。高浜・横河原線22.6㎞、郡中線11.3㎞で、沿線は住宅地が目立つものの、新しい見どころ、振り返りたい歴史文化財が散在していた。鉄道ファンにお馴染みの平面交差は高浜線大手町駅近くにあるが、新しい視点で歩く楽しさを一般利用者との会話から拾えるのはなによりだ。

2020/06/22 「日本遺産」を活かすチャンス

 文化庁は6月19日、新たに「日本遺産」21件を認定した。
 念のため数社に確かめたが、鈍い反応。「せっかくの国認定。パワーを誘客に活かすチャンス到来」と繰り返した。
 因みに、2015年度初認定以来、104件になっている。

 今回の一つの『海を越えた鉄道』(福井県。滋賀県)は、秘かに認定を期待していた。「長浜市・敦賀市・南越前町観光連携協議会(岩倉光弘会長)が申請していたもので、長浜市の旧長浜駅舎などが対象になった。この一帯には明治15年に日本海側の最初の鉄道として長浜~金ヶ崎間が開通していたなどの鉄道遺産が多い。それに琵琶湖や西国三十三所観音巡礼のコース。鉄道ファンならずとも観光客を楽しませる素材は限りない。招く側はもちろん、旅立たせる側にもしても格好のニュースだ。

 そのさい観光割引やバス、タクシーの情報をお忘れなく。体験上、特にバス網の案内が大きなポイントになると思う。「なぜ『海を変えた鉄道』なのか」、「南越前町との関係は」などの疑問を解きながらの観光客誘致を期待したい。

2020/06/23 令和の年に昭和村?

 福島県奥会津に昭和村がある。
 昭和2年(1990年)に二つの村が合併して誕生した人口1300人の山村。

 JR只見線のコースもあるが、今回は東武鉄道浅草駅から東武線、会津鬼怒川線、会津線で会津田島駅へのコースを紹介。下車して昭和村南会津町生活バスかタクシーに乗り換える。特急電車を使っても片道約5時間は覚悟。しかし、"昔と今が織りなすタイムトリップ"の道中を「もう一度経験したい」という旅人が多いとか。

 初夏から晩秋にかけての花・カスミソウの栽培面積は全国一。豊かな自然の中に『道の駅・からむし(苧)の里しょうわ』が待ち受ける。
 特産のからむし織は室町時代からの織物。織姫交流館では体験可能だが、改めて泊まり込み約一年の織姫・彦星制度に応募する人も後を絶たず、「終了後そのまま定住する人がふえている」(湯田文則奥会津昭和村振興公社専務)というほどの評判。

 「行きの長旅の疲れも、帰りの車中ではもう一度という気持ちに変えさせること間違いなし」と村民は屈託なく笑う。

2020/06/25 わ鐵に架かる橋梁は72ヵ所

 長年の友の訃報が届いた。彼の趣味は鉄橋を行く鉄道写真の撮影。特に三セクの『わたらせ渓谷鐵道』(愛称・わ鐵)がお気に入りだった。

 群馬県市域の桐生から栃木県日光市域の間藤まで44.1kmには、渡良瀬川(一級河川)が四季折々の風情を見せる。偶々、同社から「コロナ禍ながら2種類のトロッコ列車のうち、まず<わたらせ渓谷号>を7月5日から運転開始」と伝えてきた。同号は大間々~足利間を一日一往復。これも友人とのご縁による情報か。

 わ鐵沿線は、JR東海の元会長須田寛氏らが啓もうする"産業観光"の代表例。同社の前身は明治、大正期からの足尾銅山産出の銅運搬を役目とした足尾鉄道で国鉄、JR東日本と繋ぎ今に至る。歴史・文化・民俗の多様な姿は、風光明媚の魅力を倍増する。

 橋梁72、トンネル10。沿線の38施設が国登録有形文化財で、平成28年には土木学会が"土木遺産"に認定したほど。日光へは藤間駅から日光市営バスで約40分。ダイヤなどを調べて行程をつくり歩けば、わ鐵の魅力を再確認する機会にもなる。

2020/06/27 南鉄公認の応援歌"希望の花"

 熊本県の三セク・南阿蘇鉄道(愛称・南鉄(なんてつ))は、2016年4月16日の熊本地震で高森線中立~高森間全線17.7kmが不通になった。
 108日後に高森~中松間7.1kmは復旧したが、現在もそのまま。

 特にJR豊肥線と接続の中立駅付近は地層の関係もあって難しい工事の連続。水面から60mの高さ日本一の第一白川橋梁やそれに続く大小のトンネルが壊滅的な被害を受けた。熊本県や関係自治体などの支援を受けて、令和5年夏ごろまでに全通をと目標を立てたが、予断を許さない様子だ。

 そうした中で元気づけているのは南鉄公認の応援歌"希望の花"。東京在住のミュージシャンと砂を使った作品をつくる画家が互いの持ち味を生かしてDVDにまとめて発売、その販売収益金を南鉄義援金として送り続けているという。
 もう一つは一般からの支援金。1万5000円で枕木に名前を残すももので、生活路線としての再起をと願う沿線住民はもとより、遠方からも支援の手が差し伸べられている。「高森~中松間にはトロッコ列車"ゆうすげ号"も営業運転しています。着実に復興への歩みを続けている現状を確かめながら旅心を楽しんでほしい」と津留恒誉専務は話している。

 南鉄の『南阿蘇水の生まれる里白水高原』駅は日本一長い駅名というのも話のタネだ。それにトロッコ列車で初夏の花・ゆうすげを楽しむのも復興支援になる。

2020/06/30 賢治の「雨ニモマケズ」が歌に

 今朝4時のNHKラジオでシンガーソングライターの沢知恵が宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」に曲をつけて歌っていた。初めて知ったことなので驚いた。
 同時に、岩手県の三セク・IGRいわて銀河鉄道(愛称・IGR)がタクシーと連携して『IGR地域医療ライン』の地味な活動をコツコツと続けていることを思い出した。盛岡~目時間(82.0㎞)を取材したさい、沿線住民が石川啄木と宮沢賢治の名前を何度も口にしていたのでなおさらだ。

 『IGR地域医療ライン』は、同社が長年にわたり沿線住民のため心掛けている"安心リレーの絆"。急病人用に小繋、一戸、金田一温泉などの駅前に専用無料駐車場を用意し、列車内にはアテンダントを同乗させて県都の盛岡駅へ。到着ホームでは岩手中央タクシーに引き継ぎ、岩手県立中央病院、岩手医科大病院まで移送というシステム。筆者も偶然、盛岡駅ホームでの場面を目にしたが、幟を立てたタクシー乗務員とアテンダントの連携は極めてスムーズだった。

 しかし、最近になって岩手医科大学が東北本線矢幅駅近くに移転したと聞いて、その後の様子が気になっていた。
 それは心配無用だった。医大移転跡地には新たに内丸メディカルセンターが開院、従来通りの態勢を維持していたのだ。IGRの浅沼康揮社長は「人口減少と高齢化社会の進行で、沿線の医療機関は少なくなるばかり。特に高齢者の医療不安は高まる一方です。地域の鉄道として最大限のカバーに努めていきたい」と熱く語る。

『雨ニモマケズ』の終りの五行が好きだ
 ミンナニデクノボートヨバレ
 ホメラレモセズ
 クニモサレズ
 サウイフモノニ
 ワタシハナリタイ

2020/07/01 南越前町の熱い思いを拝受

 文化庁が6月19日に認定した『日本遺産』の一つ、"海を越えた鉄道"をご紹介したばかりだが、早速、福井県南越前町役場観光まちづくり課から鉄道ファンでなくても手にしたくなるようなパンフレット類が届いた。なかでも「記憶の旅へ」の大小2種類は楽しい。

 旧北陸線の鉄道遺産をエリアとする滋賀県長浜市と福井県敦賀市、南越前町(今庄)の2市1町が連携しての鉄道遺産回廊をカラー刷りしたもの。各エリアまでの車と鉄道の所要時分を大阪・名古屋~金沢間で紹介しているが、まずは"福滋(ふくじ)県境"を越えての案内ならば妥当だろう。せっかくのことなので小欄も機会を見つけては紹介を心掛けたい。
 これからの観光事業は、従来型型既存の評判に頼って客足を待つ時代ではないといわれている。
 鉄道・バス。タクシーの地域公共交通の連携体制もまた問われそうだ

2020/07/03 廃線免れたJR飯山線を見直す

 「記事の中に地方交通線を意識してほしい」のご指摘を頂いた。すぐに思いついたのはJR飯山線。長野県長野市の豊野駅から新潟県長岡市至る96.7㎞。JR飯山線はまさに"地域公共交通の要"の代表例だ。

 長野~豊野間の経営は三セク・しなの鉄道に移管されているが、並行在来線という枠にとらわれず、運行業務は三セクからJRに委託された形でJRが受け持っている。また豊野~森宮野原~足滝間は長野支社管内、足滝~越後川口間は新潟支社管内に分けられている。

 豊野駅から分岐する北しなの線の終点・妙高高原では三セク・えちごトキめき鉄道の一線"妙高はねうまライン"が日本海沿いの直江津駅までの旅を誘っている。JR飯山線に止まらず、鉄道のあり方をもっと広い視野で見守りたい路線だ。

 余談だが、飯山線には思い出がある。駆け出し記者の時、豪雪の中の鉄路を守る保線マンを取材するように命じられた。確かタイトルは『飯山線に闘う』で連載ものだった。

 そこでベテラン保線マンが「絶対に口笛を吹かないように」と念を押された。緊張しているから吹くはずもないが、理由をたずねると、「空気を刺激して、かろうじてバランスを保っている斜面の雪が雪崩になる」ということだった。それは後年、各地の取材でも役立った。雪崩報知器なども珍しくなくなった昨今だが、AI時代にこの話は通じるだろうか。

2020/07/05 鉄道メロディーに新たな息吹を

 テレビやラジオで鉄道ものを見聞きすると、それなりメロディーが流れる。コロナ禍で外出自粛。ある時、「決まったような音楽ばかり」と気が付き、調べる気になった。

 知人のデータでは日本に関するものだけで1875年(明治20年)の"汽車"(じょうきしゃ)から2017年(平成29年)の"哀しみの終着駅"(歌・森昌子)までざっと400曲あった。鉄道唱歌、社歌、お座敷歌、歌謡曲・・・ジャンルは様々だが、思わず口ずさむ歌も少なくなく、しばし心を和ますことができた。

 毎年、10月14日前後の"鉄道の日"に東京で大々的な記念行事が開催されているが、どちらかといえば売り物は古い切符やグッズ類といった鉄道ファン好みのものが主流のようだ。そのたびに思うのだが、鉄道会社や関連企業にはコーラスグループなどがあるはずだから、得意のハーモニーを聞かせてくれることはできないものだろうか。自社沿線の歌も結構。会場周辺には鉄道ファンでない人も大勢いる。楽しませながら沿線PRにもなるはずだ。

 実は、電車で乗り合わせた幼子が愚図った折に、困った若いパパさんを見かねて、つい♪今は山中今は浜・・・とやってしまった。驚いたのかどうしたのか分からないが、まもなく幼子は機嫌をなおした。パパさんの嬉しそうな顔を見て、勝手ながら鉄道唱歌の良さを再認識した。

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